「ここ数十年で多様化が進み『自分とは違う生き方』をしている人を目にする機会が増えたことが要因ではないかと思います。多様化は認め合えれば素晴らしいことですが、そうでない場合は摩擦の原因になりかねません。どれだけ詳細に言語化されていても、自分の経験していないことをイメージするのは難しい。結婚や出産という選択をする人が少なくなっている状況下において、育児の苦労や努力は共感してもらいづらくなっていると思います」

 そう話すのは公務員として働きながらSNSで育児マンガをつづる2児の父、パパ頭氏だ。育児マンガは『パパが育休とってみたら妻子への愛が深まった話』(KADOKAWA)として書籍化もされ、パパ目線の育児の感動や葛藤に共感が集まった。パパ頭氏は、子育て世帯を巡る対立には時代の変化も影響していると話す。

「あえて乱暴な言い方をすれば、かつては『結婚や出産はいつかするもの』といわれる風潮があり、自分のライフプランとして想像する人も多かった。だから自分以外の人生も、なんとなく想像できた。でも今は結婚する人が少ない上に、子供を産む人はさらに少ない状況。結婚、出産にどんな苦労や悩みがあるか、寄り添って想像することは多くの人にとって困難です。対立の原因には各個人の考え方だけでなく、時代や環境の変化も大きく影響していると思います」

 そのうえで子育てに寛容な社会を作るためには、もっと『余裕』が必要ではないかという。

「ベビーカーが電車内で場所をとってもイライラしないおおらかさ、子供が大声で泣いても生活が侵害されたように感じないゆとり。そういう余裕を持つことが難しい社会になっていると感じます。時間の余裕や経済的余裕、精神的余裕など、多くの人が余裕を持てるような社会に変わっていかないと、他者へのおおらかさは失われ続け、日本の子育て環境はどんどん厳しくなると思います」

 普段は高校教師として働くパパ頭氏。これまで二度の育休を取得してきたが、子育てに理解のある職場環境でも申請には勇気が必要だったと振り返る。

「職場で育休を取る男性は少なく、自分が抜けた分の負担を誰が埋めるのかという問題がありました。結果的に代わりに来てくれる方が見つかって丸く収まりましたが、勤め先の経営的な体力や余裕次第では難しかったかもしれない。育休は労働者の権利ですが、多くの人が協力してくれることを忘れてはいけないし、感謝は率先して伝えるべきだと感じました」