「子育てはすばらしい」という
価値観を共有しづらい時代

 物価高騰に電気代値上げ、増税と先が見えないニュースが続く日本。日々の生活に追われて、余裕を失っているのは子育て世帯だけではないだろう。だからこそ互いに歩み寄ることを忘れないようでいたい、とパパ頭氏は言う。

「僕は職場や外で子育ての話題になった際、できるだけ結婚や子供を選択しなかった自分を想像し、その場合の自分ならどう感じるかを念頭において言葉選びをするようにしています。育児の経験を持たない相手に対し、理解を得たいという気持ちはもちろんありますが、一方で子育てに関することは配慮してもらえて当たり前、という姿勢で臨んでしまうと、ますます分断を深めてしまいかねません。それでは互いに不幸な結果を招いてしまいます」

「子は宝」とよく言われるが、もはや子育てはすべての人にとって『すばらしい』と言えるものではなくなっている。

「今はコストとパフォーマンスをてんびんにかけ、より合理的な選択をすることがよしとされる『コスパ社会』になっているようにも感じます。コスパ重視の世の中では、育児は必ずしも魅力的に映りません。

 子育てはコスパと正反対。コストにしてもパフォーマンスにしてもとにかく見通しが立たず、計算ができない。もちろん子育てには他の何にも代えがたいものがたくさん得られるのですが、それらはコスパの理論では測りきれないものばかりで、体験を通じて見えてくるものでもある。『子どもはすばらしい』という価値観を共有することは以前よりも難しくなっていると思います。だからこそ互いの歩み寄りが大切になる。多様化の時代にこそ、自分とは違う生き方について伝えあい、想像しあうことが重要ではないでしょうか」

 コスパを大事にする現代人にとって、もはや「子育て」は遠い存在になりつつある。子育て世帯も子育てをしない世帯も、自分以外の生き方に目を向けて、その背景を想像できるだけの余裕が持てるようになれば、日本はもう少し他者に寛容な社会に近づくかもしれない。