物件購入を考えるときは
「ワーストケース」も想定しよう
後者(マンション相場)については、先日、ある配信番組に呼ばれて答えている。「5年後、都心のマンションはどれだけ値上がりするのか?」といった趣旨の番組だ。
そこでも述べた筆者の見解をざっくり紹介すると、「今後も金融緩和が続くので、マンション価格の上昇(資産インフレ)も続く」というものだ。
2023年4月に日本銀行総裁に就任した植田和男氏は「当面は粘り強く金融緩和を維持する」と発言している。そうなると、これまでと同様に不動産事業者に資金は流れ、その資金で用地仕入れされるので、不動産価格は値上がりしていくことになる。
日銀総裁の任期は5年間なので、2028年4月以降の価格は予測できないが、ひとまず「今後5年で25%上昇」が一つの目安になると筆者は考える。
まとめると、これまで述べてきた(1)価格の割高度、(2)年間下落率、(3)相場変動の3点を総合的に考えると、5年後の含み損益が分かるというわけだ。
個人の相談を受けているときにこの話をしたら、「沖さん、ぜひワーストケースを設定してくれませんか?」と頼まれたことがある。「なぜですか?」と聞くと、「ワーストケースでも損しないなら購入に踏み切れるからです」という答えが返ってきた。
「なるほど、その気持ちも分からなくない」と思い、最終的な回答は下図のようにした。確率的に最も高い標準ケースに加えて、ベストケース・ワーストケースを設定したのだ。
最後に、その際の考え方をご紹介する。ある人が1億円のローンで購入したマンションにしばらく住み、5年後に売却するとしよう。そして、この家に住んでいる間は毎年2.7%のペースでローンを返済したとする。
5年後の累計返済額は元本の13.5%(1350万円分)で、残債は8650万円だ。もし物件価格が下落していない場合、売却によって得た1億円でローンを完済すると、手元にはこの1350万円が残る。
ただし、売却の際には仲介手数料と諸費用がかかるので、それらを引いた実質的な残額は1000万円(元本の10%)ほどになるだろう。
今回はこの試算を標準ケースとすると、ベストケースは5年後に物件価格が10%値上がっている場合だ。含み益は20%となり、購入価格が1億円なら売却後に2000万円のキャッシュが生まれているはずである。
一方で、ワーストケースは10%下落している場合だが、この水準であればマンション売却に伴う収支はトントン(プラスマイナスゼロ)になる。下落幅がこれ以上小さい場合は、売却時に必ずキャッシュが手元に残る。可能であれば、こうした計算を駆使して損益分岐点を算出してみてほしい。
家賃は実質「掛け捨て」、住宅ローンは実質「積み立て」なので、持ち家の購入は家賃を払い続けるよりも資産形成で有利なのは当たり前だ。中には「家賃がかからないので社宅は得」だと思っている人もいるかもしれないが、持ち家はそれよりもお得だといえる。
冒頭の通り、含み益に関する相談が最近増えているが、私に相談しても同じことを回答するだけなので、できれば個人相談が減ることを期待している。今回紹介したシステムや計算方法などを使えるだけ使って、皆さんがうまく「自宅で資産形成」することを祈念している。