正論で論破しても、人は動かない

 仕事をするうえで、「利害の不一致」は避けられません。そうしたときに強引に意見を通そうとすると、無用な争いが起こります。

 営業部のリーダーAさんのもとで、急に退職者が1名出てしまいました。そこで、人事部のマネジャーに、転職エージェントを使って募集をかけてほしいと伝えました。営業部では、ここ1年で育休社員1名、介護による時短社員が1名発生し、フルタイムで働ける社員が少しずつ減っていたのです。

 人事部は、予算と労力には限りがあるため、「善処はするが、早急な解決は難しいかもしれない」と意見を返しました。人事部の言うことは正論です。転職エージェントは高いので、先月は求人広告の小さな枠とSNS広告を使って募集をかけていました。

 Aさんも、そうした状況は理解していました。それでもAさんは、これから繁忙期に入るのでどうしても営業の人員が3人は欲しいと考えています。そうでなければ、部の掲げた目標未達は必至です。そこで、Aさんは、次のように伝えました。

「営業活動に支障が出たら会社としても困りますよね。人の力は大切です。採用費を惜しんではいけないですよね」

 このように、正論で押し通そうとします。これは、いい伝え方ではありません。

 仮に押し切れたとしても、人事部は積極的になれないでしょう。「コンフリクトマネジメント」という言葉をご存じでしょうか。

 コンフリクトマネジメントとは、部門間の衝突や対立、葛藤(コンフリクト)を、組織が成長する機会としてポジティブに捉え、積極的に問題解決に取り組む考え方のことです。これは、その中でも「強制」に当たり、悪手とされています。そもそも、予算が足りず「無い袖は振れない」ことに変わりはありません。

 さて、Aさんは、「せめて、ひとりの即戦力はすぐに欲しい」と折衷案を出します。少し折れた感じです。さらに、「どこまでなら譲歩できる?」と続けます。

 しかし大事なのは、提案前に「譲れない条件」を聞くことです。それ以外なら、打開できる可能性があるからです。すると「予算が50万円を超えるのはダメ」などの返事があります。

 そこで、求人媒体へ営業部側がキャッチコピーなど、募集の文面を考えるのはどうかと伝えます。今までは人事部がすべてやっていたので営業部は文面を考えていなかったのです。「それならいい」と人事部の承認に至ったのです。

 会社組織で、早期解決できる問題はそう多くはありません。焦らず、長期的に得する交渉をしていきましょう。