他部門の言い分を認めるところから始めよう
賢いリーダーは、先ほどのように協力態勢を整えますが、愚かなリーダーは対立を深めます。
システム販売の会社で営業マネジャーを務めるAさんは、営業同行について技術部のマネジャーEさんと意見が対立しました。会議で、技術部から次のような苦情が出たのです。
「受注確度の低いクライアントにまで同行しなきゃいけませんか?」
「同行前に聞いた情報とクライアントから聞く情報に食い違いが多い」
「営業メンバーにもシステムの基本を学んでほしい」
今後、営業部は技術部に同行を依頼するルールを定めることになりました。腹が立ったAさんは、デスクに戻ってこんなことをメンバーに話したようです。「クライアントが急に技術部の同行を望むのは、仕方がない。臨機応変に頼むよ。Eさんは頭が硬い」とデスクに戻ってメンバーたちに愚痴を言います。
リーダーが表立って他部門批判をするのは最悪です。第三者を介して、ほぼ確実に相手に伝わります。しかも尾ひれまでついて。
もちろん、面と向かって批判をされれば、ムッとする気持ちもわかります。しかし、その感情をリーダーが表に出せば、部下にまで伝わってしまいます。
始めは他部門のリーダー同士で勃発したはずの対立が、いつの間にかメンバーを巻き込んだ部門同士の対立へと発展する恐れもあるのです。どちらも損するだけで、誰も得しないでしょう。
他部門には他部門の言い分があります。もちろん、それは自部門も同様です。つまり、お互い様なのです。
ですから、リーダーに必要なのは、まず相手の主張を認めることでしょう。
「Eさんの言いたいこともわかる。こちらとは立場が違うからな」
本心では納得していないニュアンスではありますが、それでも構いません。悪口を言うよりは何万倍もマシです。
さて、もしここでAさんが器の大きいリーダーなら、こう答えるでしょう。
「Eさんの言いたいこともわかる。Eさんの指摘は、冷静に振り返れば納得できることが多いよ。その場では、『えっ』ってなるけどね。鋭いし、勉強になる」
このように、あえてEさんがいないところでほめるのです。
おそらく、AさんとEさんは、根本的なところで馬が合わないのでしょう。合わない人同士、お互いに見えないところで、「自分のことを悪く言っているかもしれない」と疑心暗鬼に陥っているかもしれません。
しかし、間接的にEさんにAさんがほめていることが伝われば、EさんはAさんへの不安がなくなります。つまり、心理的安全性が担保されるのです。これは、相手の目の前で称賛するよりも効果的です。
ちょっと合わないと感じる人と良好な人間関係を築くために、「相手がいないところで、ほめる」ことを試してみてください。完全にはわかり合えないまでも、わかり合えるよう距離を縮める努力をするのも、リーダーの仕事です。