大和ハウス工業の祖業である戸建て事業が低迷している。ライバルである積水ハウスやオープンハウスグループに大きく水をあけられ、社内でも成長する商業施設や事業施設の部門に比べて、戸建て事業の序列は下がるばかりだ。こうした状況を打開すべく、芳井敬一代表取締役社長CEOが全国の支社長、支店長に対して「劇薬」を投じ、戸建て事業で反転攻勢に出ようとしている。特集『大和ハウス工業 三刀流の異端経営』(全6回)の#1では、芳井社長が投入した劇薬の中身、そして住宅事業の反転攻勢策を解き明かす。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)
住宅事業には耳が痛い“聖書”の言葉
「販売なくして企業なし」
大和ハウス工業に入社すると、必ず配られる“聖書”がある。
書名は『わが社の行き方』。
創業者の石橋信夫が1963年にまとめた冊子で、社是や社員の心得などを記している。社員は朝礼で『わが社の行き方』を輪読するなど、創業者の教えを金科玉条としている。
「スピードは最大のサービスである」「商売は足と根性である」といった心得は、発行から半世紀以上を経てもなお、ビジネスパーソンの心に鋭く突き刺さるほど、的を射たものばかりだ。
そして『わが社の行き方』の冒頭に書かれている言葉は、低迷が続く戸建て住宅事業の社員には特に耳の痛い内容だろう。
販売なくして企業なし――。
大和ハウスの祖業といえる戸建て住宅事業は、正念場を迎えている。販売戸数は2013年度の1万0521戸をピークに減少が続き、22年度は5762戸にまで落ち込んだ。
これに対し、大和ハウスと顧客層が重なり最大のライバルである積水ハウスは、23年1月期で1万0061戸に上る。業界トップの飯田グループホールディングスは22年度に4万0826戸、急成長を続けるオープンハウスグループは22年9月期に1万0779戸だ。大和ハウスはライバルに大きく水をあけられている。
完敗を喫しているのは、社外だけではない。
もともとコア事業として社内ではかつて圧倒的な存在感を見せていた、戸建て住宅を担う住宅事業本部は、好業績をけん引する建築事業本部や流通店舗事業本部に主役の座を奪われている。
住宅事業本部のある社員は「建築や流通店舗が売り上げを伸ばしていて、住宅事業は肩身が狭い。社内で『住宅事業の分社化』といううわさが出るほどだ」と漏らす。
不振が続く戸建て住宅のてこ入れにとうとう動いたのが、芳井敬一代表取締役社長CEOだ。芳井社長は、住宅事業の立て直しに向けて全国の支社長、支店長の発奮を促すため、前代未聞ともいえる、ある“劇薬”を打ったのだ。
果たして、その劇薬とは。次ページでは、芳井社長が投じた劇薬の中身をつまびらかにする。実は、劇薬を打つに至った背景には、住宅事業の従来戦略からの大胆な転換がある。大和ハウスは劇薬に加え、新戦略を引っ提げて積水ハウスや飯田グループ、オープンハウスに反転攻勢に打って出たといえる。