早大野球部・小宮山監督が「プロ入り公言も不振」の有望投手にかけた言葉、夢は“ドラ1”早稲田大学野球部が夏合宿を行う「ベーマガスタジアム」(新潟県南魚沼市)

明治大学の3季連続優勝で幕を閉じた東京六大学野球・春季リーグ戦。優勝を見据えて挑んだ早稲田大学野球部は4位に終わった。その早大野球部には、直近のプレーがあまり冴えないにもかかわらず、「プロ入りを目指す」「ドラフト1位で指名される」と高い目標を掲げる部員がいる。確かに才能に恵まれており、高校時代の実績も申し分ないのだが、今一つ伸び悩んでいるこの青年に、元メジャーリーガーの小宮山悟監督はどんな指導を行おうとしているのか――。(作家 須藤靖貴)

教え子が殻を破れるよう
“アシスト”するのが教員の仕事

 筆者には教員関係者の友人も多く、同世代は小中学校の校長になっていたりする。指導者の指導をする立場だというから頭も下がる。

 彼らと話すとき、「啐啄同時」(そったくどうじ)なる言葉をしばしば耳にする。「啐」は鳥のヒナが殻を破ろうとするとき。そこを見逃さず、親鳥がくちばしで殻を突いて手助けするのが「啄」。これが同時だとヒナは滑らかに孵化するという。

「指導者は児童(生徒、学生)にアドバイスを送ることが仕事だが、それが四六時中だと注意のインフレ状態となって逆効果になることも。子どもが教えを乞いたいと願った瞬間を見計らい手を差し伸べる。この『啐啄同時』が大事」

 教育者の知人はこう言っていた。

 それもなるべくさりげなく。殻を突き破るのはあくまでヒナである。指導者は教え子の突破力をアシストしてやるのだ。

 大事なのはタイミング。「指導者が日頃からいかに子どもたちを観察しているか」に尽きる。ありていに言って、それができる教員こそが良い教員――と小学校校長の友人。だが残念ながら、そんな先生は多くないらしい。デスクワークも膨大だろうし、受け持ちの児童も少なくないだろうし、なかなか難しいことなのかもしれない。

 前置きが長くなったが、本題に入る。東京六大学野球の春季リーグ戦で4位に終わった早稲田大学野球部では、元メジャーリーガーの小宮山悟監督が、くすぶっている部員が自ら殻を破れるよう指導に尽力している。

「今しかない」。小宮山悟監督は口を結び、目線を強くしてうなずいた。

 春のシーズンを終え、気持ちを切り替えて臨んだある練習試合。常にベンチ入りする2年生投手の出来が芳しくなかった。その実力からすれば期待外れだったのである。

 彼は将来のプロ入りを目指すと公言しており、ピッチャーとしての才能は小宮山監督も認めるところである。しかも小宮山との面談で、彼は「ドラフト1位で指名されたい」という野望も明かしている。