練習は「量より質」と言っていいのは
「量」を極めた者だけだ

「量より質という言葉は、量をこなした人間が次のステップとして質を考えるということ。ここを、ほとんどの部員が勘違いしている」

 小宮山がドラフト1位を勝ち取ったのは、早稲田大の下級生時からとにかく「量」をこなしたから。投げて走っての繰り返し。この「量」をベースに「質」を高めたからこそ、プロで長く活躍できたのだと明言している。また、小宮山が全幅の信頼を置く金森栄治助監督も「練習の虫」だった。彼が早稲田大下級生の頃の逸話である。グラウンドでの練習を終えた夜、下宿の玄関先でいつまでたっても素振りをやめない。

 その鬼気迫る集中ぶりを同僚たちが問うと、「(素振りを)やめるタイミングが分からない」と爽やかに笑ったという。そこまでやれる人間がプロ入りし、活躍して球史に名を刻むのである。

 この面談から約1カ月。東伏見の安部球場でも梅雨が明けた。2023年、猛暑の到来である。
 
 7月末の取材で、この件について小宮山監督に尋ねると、「あれから、少し危機感が出てきたようだ」と少しだけ表情を緩めた。

 だが、「これくらいでドラフト1位とは、寝言としか思えない」と厳しい評価を崩さない。そう甘いものでもあるまい。なにしろ日本一と自ら認定できる人間のみが名を連ねるステージなのだから。

 秋の本番まで、それほど時間はない。7月30日、強豪の青学大とのオープン戦が組まれた。早稲田大の部員たちは気力を振り絞り9-3と完勝。打線の好調を受けた投手陣が踏ん張った。先発は伊藤樹。伊藤は5回を1安打(内野安打)と安定感を見せ、後のリリーフ陣も堅実に青学打線を抑え切った。東伏見の安部球場は大変な猛暑ではあったものの、両チームの緊張感みなぎるプレーに観戦者の背筋も伸びたのである。

 この8月――。早稲田大野球部は昨年に引き続き、新潟県南魚沼市で夏合宿を行う。

 なにもこの2年生投手だけの話ではない。監督はそれぞれの部員たちのタイミングでアドバイスを送る。

 合宿参加組は日本一の米どころでうまい飯を食べ、日本一の研鑽を! 

(敬称略)