新日本酒紀行「一歩己」9代目矢内賢征さん Photo by Yohko Yamamoto

酒蔵を町に!己の一歩を託す、9代目の改革

 林業の町、福島県古殿町は鮫川沿いの山間の集落。町の中心部を走る、いわきから白河へ塩を運んだ御斎所街道沿いに、天保年間に創業したのが豊国酒造だ。僻地故に外から競合の酒が入らず、200年以上も地元だけで酒を売ってきた。

 2009年、9代目矢内賢征さんが酒蔵を継いだときは、普通酒主体で生産量は減少の一途。そこで高品質な限定流通酒「一歩己」を立ち上げた。強い一歩を踏み出し、己の全てを込める酒と命名。米は10kgずつ手洗いし、全工程をひたすら丁寧に醸し「誇りを持つ酒は、自然と評価が付く」と信じた。だが、いきなり東日本大震災で被災。マイナスからのスタートを切り、「震災後、一歩の思いがより深く重く、強くなりました」と賢征さん。先代杜氏と福島県ハイテクプラザの鈴木賢二先生の指導を仰ぎ、徐々に酒質が向上。全国新酒鑑評会で連続金賞、南部杜氏自醸清酒鑑評会で首席を受賞するなど、評価が高まり、「一歩己」は生産量の6割に。