24時間監視・携帯NG
ガムやラーメンまで没収

 平壌で浴びた洗礼は報告書の記述だけにとどまらない。保安を理由に持ち込みが禁止された携帯電話は、経由地の北京市内のホテルに預けざるを得なかった。パソコンもしかり。選手が持ち込んだインスタントラーメンやガムなども没収される異例の措置に、JFAがアジアサッカー連盟(AFC)に抗議したほどだ。

 万が一のトラブルを防ぐために、当時の選手たちは日課にしていた散歩も自粛した。宿泊先は外国人観光客専用の超高級ホテルだったが、フロアごとに3人ないし4人の守衛が無言で目を光らせる。24時間体制で監視される不気味さに耐えられず、一人部屋があてがわれながら2人で寝た選手もいたと、帰国した選手たちが慎重な口調で平壌での特異な経験を明かしている。

 試合までに気がめいっただけでなく、満員の約5万人で埋まった金日成競技場に響くブーイングが試合前の国歌もかき消した。ザックジャパンが17試合目にして喫した初黒星は、必然に近いものでもあった。

 その試合も含めて、平壌での通算成績は2分け2敗と、日本は一つも勝てていない。繰り返しになるが、北朝鮮は決して侮れない相手なのだ。

北朝鮮は前回のW杯予選を
途中棄権していた

 日本とシリアおよび北朝鮮の通算対戦成績を比べると、対シリアは9勝2分け、27得点9失点と圧倒している。一方で、対北朝鮮は8勝4分け7敗、19得点14失点と苦戦してきた跡が伝わってくる。

 これほど実力をつけてきた北朝鮮が前回のカタールW杯に出場していないことを疑問に思う読者がいるかもしれないが、彼らは韓国と同じグループだった2次予選を「新型コロナウイルス禍では国外との交流を避ける」として途中棄権した。

 ただ北朝鮮は当時、記録上では無効試合となっているホームでのレバノン戦と韓国戦を平壌で開催している。この点からも、北朝鮮は代表戦の国内開催にこだわりを持っているとみていい。今回のアジア2次予選でも、やはり日本代表は第三国ではなく北朝鮮国内でのアウェイ戦に臨むことになりそうだ。

 このような抽選結果を受けて、日本代表を率いる森保一監督はJFAを通してこんなコメントを発表している。

「いよいよ2026年のW杯に向けた予選が始まります。今回の組み合わせを見ても、われわれにとっては決して楽な道は一つもないということをあらためて思いました。選手にとってはシーズン中の長距離移動による疲労蓄積、すり合わせの時間も十分にないタイトなスケジュール、強いモチベーションを持った対戦相手、これらすべてに打ち勝つ強いメンタリティと選手・スタッフ一丸となってチームワークを発揮して臨みたいと思います」

 出場国数が従来の32カ国から48カ国に拡大する次回W杯で、アジア大陸枠は「4.5」から「8.5」へ大幅に増える。

 その出場を懸けたアジア予選では、冒頭で述べた46チーム中10チームが1次予選で姿を消す。残る36チームの半数も2次予選で脱落し、勝ち残った18チームで3次予選を戦う。

 3次予選では「6チーム×3グループ」に分かれてホーム&アウェイ戦を行い、各組の1・2位のみW杯出場が確定する。その後は3・4位のチームによる予選と大陸間プレーオフによって出場国が決まる。

 8大会連続8度目のW杯出場へ向けた第一歩となるアジア2次予選で、日本は11月16日にホームでミャンマー対マカオの勝者と、同21日にはアウェイでシリアと対戦。翌24年の3月21日には北朝鮮とホーム、26日には因縁のアウェイで注目の連戦が組まれている。