おふたりPhoto By Teppei Hori

同時通訳者として、ビル・ゲイツ、デビッド・ベッカム、ダライ・ラマ、オードリー・タンなど世界のトップリーダーと至近距離で仕事をしてきた田中慶子さん。「多様性とコミュニケーション」や「生きた英語」をテーマに、現代のコミュニケーションのあり方を考えていきます。今回は、アニメ映画も大ヒット中の、ジャズをテーマにした漫画『BLUE GIANT』の作者、石塚真一さんと対談。「絵は苦手でコンプレックス」と語る石塚さん。明るくフランクなお人柄で会話も弾み、会社員から一念発起して漫画家をめざした理由や、敬愛する漫画家、仕事の原動力、海外でのコミュニケーションなどにも話が及んだ、ロング対談の模様をお届けします。(文・構成:奥田由意、編集:ダイヤモンド社 編集委員 長谷川幸光、撮影:堀哲平)

「漫画を描くのに疲れると映画館へ行って
『BLUE GIANT』を見ています」

田中慶子さん田中慶子(たなか・けいこ)
同時通訳者。Art of Communication代表、大原美術館理事。ダライ・ラマ、テイラー・スウィフト、ビル・ゲイツ、デビッド・ベッカム、U2のBONO、オードリー・タン台湾IT担当大臣などの通訳を経験。「英語の壁を乗り越えて世界で活躍する日本人を一人でも増やすこと」をミッションに掲げ、英語コーチングやエクゼクティブコーチングも行う。著書に『不登校の女子高生が日本トップクラスの同時通訳者になれた理由』(KADOKAWA)、『新しい英語力の教室 同時通訳者が教える本当に使える英語術』(インプレス)。Voicy「田中慶子の夢を叶える英語術」を定期的に配信中

田中 石塚さんの作品『BLUE GIANT』がアニメ映画化され、大ヒットしています。海外での上映も予定されていますね。ご自身の作品が映画になるのはどのようなお気持ちですか?

石塚 もちろん、うれしいです。作者としてはもう、あらゆる人に見てほしいですよ。できれば学校でも、教材としてどんどん活用してもらいたい(笑)。

田中 完成した映画を初めてご覧になったときはいかがでしたか?

石塚 「絵が動いている!」「絵に音がついている!」と、それはもう感激しましたよ。何よりうれしいのは、映画が終わると、見に来てくださっている方たちが拍手してくれたりすることです。

 普段は、部屋でひとりで漫画を描いて、その日の分を描き終えたら、パソコンの電源を落とし、仕事場の電気とエアコンを消して、「あ、ゴミ出しを忘れた」、みたいな生活。誰も拍手なんかしてくれませんからね(笑)。

 でも、映画にはリアルにオーディエンスがいて、映画が終わるとお客さんが笑顔だったり、泣いていたり、拍手をしてくれたりする。それが最高に気持ちいい。

 映画の音楽はジャズ・ピアニストの上原ひろみさんが担当してくださったのですが、この前、「上原さんはいいなあ、演奏するたびにお客さんが拍手してくれて」と上原さんに言ったりしています(笑)。

 もちろん、読者からいただく反応やお手紙は本当にうれしいです。でもリアルタイムのレスポンスではないので、そこが新鮮な体験でした。サイン会では、来てくれた人と会話をしながら色紙に絵を描くので、緊張して、うれしさに浸る余裕もないんです。

 ですので、最近は漫画を描くのに疲れると映画館へ行って『BLUE GIANT』を見ています。もう何度見に行ったかわかりません(笑)。

田中 そうなんですね! 原作者自ら、何度も映画館に足を運んでいるのですね。

石塚 映画を見るだけではなく、お客さんを観察するんです。

「ワクワクした表情で入ってくるお客さんがいるな」「あのカップルは彼女に引っ張られてきたのかな」とか。泣いているおじいさんを見て「このシーンで泣いてくれてありがとうございます」ともらい泣きしたりして(笑)。

田中 作品が売れたから映画になるとは、限りませんものね。

石塚 ウルトララッキーですよ。映画が公開されるすべての国へ行って、お客さんの反応を見て回りたいくらいです。

石塚氏

 でも、僕の日常は、毎日コツコツと漫画を描くこと。外へ出るといっても、息抜きにコンビニへ行って、コーヒーとチョコレートを買ったら、また席に座ってコツコツと描く。自分の作品が映画になって、それを映画館で見るなんてことは、人生で何度もあることではないので、今は思いっきりミーハーになろうと思っています。

田中 石塚さんは会社員の経験がおありですが、その経験は漫画に生かされていますか?