同時通訳者として、ビル・ゲイツ、デビッド・ベッカム、ダライ・ラマ、オードリー・タンなど世界のトップリーダーと至近距離で仕事をしてきた田中慶子さん。「多様性とコミュニケーション」や「生きた英語」をテーマに、現代のコミュニケーションのあり方を考えていきます。今回は、大学の教員、書評家、ラジオのパーソナリティと多彩な顔を持つ、荒木博行さんを迎えた対談の様子をお届けします。荒木さんの近著『独学の地図』を起点に、「学びとは何か?」というシンプルで深い問いをめぐって、談論風発。今話題のChatGPTについても刺激的な対話が交わされました。(文・構成:奥田由意、編集:ダイヤモンド社 編集委員 長谷川幸光)
今の「学び」はあまりにも
狭い範囲に捉えられていないか?
田中 昨今、学ぶこと、つまり「学び」が、あまりにも狭い範囲に捉えられていると思うんです。
もちろん、学校の勉強やスキルアップ、TOEICで高得点を目指す、といった学習も重要ですが、記憶・知識の蓄積や、テクニカルなことだけに偏重した形で「学び」が定義されることに、ずっと違和感を覚えてきました。
そのような中、荒木さんの近著『独学の地図』を拝読し、非常にチャレンジングな本だなと思いました。この本は、「学びとは何か?」という壮大なテーマで、理論と実践のメソッドが見事に一冊にまとまっている。学ぶことはテストの点を上げることではなく、もっと豊かでおもしろいことだと書かれていて、「よくぞ言ってくださった!」と思いました。
(株)学びデザイン 代表取締役社長。住友商事、グロービス(経営大学院副研究科長)を経て、(株)学びデザインを設立。(株)絵本ナビの社外取締役、武蔵野大学、金沢工業大学大学院、グロービス経営大学院などで教員活動も行う。 音声メディアVoicy「荒木博行のbook cafe」、Podcast「超相対性理論」のパーソナリティを務めるとともに、(株)フライヤーなどスタートアップのアドバイザーや、(株)COASにおけるホースコーチング・プログラムディレクターも務める。著書に『独学の地図』(東洋経済新報社)、『自分の頭で考える読書』(日本実業出版社)、『藁を手に旅に出よう』(文藝春秋)、『世界「倒産」図鑑』『世界「失敗」製品図鑑』(ともに日経BP)など多数。
荒木 ありがとうございます。この本で言いたかったことは大きく分けて2つあります。
僕自身、教員でもありますので、教育の重要性は言うまでもないのですが、学ぶことに関して「教育」の側面が強すぎると、逆説的ですが、学びが失われると思っています。
例えば、教師が生徒に「A」を教えようとする場合、「A」をそのまま生徒に移植することが、教育だと思われていたりします。
でも生徒は、教師から「A」ではなく、また別の「B」というものを受け取っているかもしれません。これこそが学びだと思うんです。
好きに学んで、それを自分なりに積み重ねていこう、こうした学びの形をどんどん認めていこう。これがこの本を通して伝えたかったことのひとつです。
もうひとつは「独学」についてです。