図らずもコロナ禍が契機に
トレンドは「パーソナルスペース確保」
フェリーがぎゅう詰めの大部屋移動だったのは、もはや遠い昔の話。今どきのフェリーは、ソーシャルディスタンスを保てる、広々としたパーソナルスペースが確保されている。
例えば、新造船「はまゆう」「それいゆ」を擁して21年7月に就航した東京九州フェリー(神奈川県・横須賀港~福岡県・新門司港)は、最安値の「ツーリストA」から全てのプランが個室か半個室(カーテンで仕切られた状態)だ。同航路はコロナ禍にデビューしたにもかかわらず、いわゆる3密を避けて移動できることから、当初予想(乗船率70%程度)を上回る乗船率をキープし好調だという。
また、21年12月に就航した名門大洋フェリー(大阪府・大阪南港~新門司港)の新造船「フェリーきょうと」は、建造中にコロナ禍の影響で設計を変更。大部屋の代わりに、各種個室を大幅に増設した。その他の長距離フェリーも大幅な改装に踏み切っており、図らずしてコロナ禍が、船旅の快適さを向上させるきっかけになったといえるだろう。
そもそも、各社ともトラック・コンテナ輸送に対応するために船体を大型化している。乗り心地は劇的に向上し、フェリーを降りてすぐクルマやバイクの長時間運転ができるほど、しっかり休めるようになった。バリアフリー対応やコンセント設置などの整備も進み、格安プランでもそれなりに快適に過ごせる。
長距離フェリー各社は、船内のアクティビティー(体験型のレジャー)にも力を入れている。下記はほんの一例。もはや、ちょっといいホテル+アミューズメントパークのようだ。
・ゴロ寝しながら眺められるプラネタリウム+極上のビーズクッション(東京九州フェリー)
・映画館やシアター、ライブショー(太平洋フェリー・新日本海フェリーなど)
・船内のプロジェクションマッピング(さんふらわあ別府航路・志布志航路)
船内の移動スペースは限られているため、子どもがそう簡単に迷子にならないのはうれしい。
もちろん、眼前の海を展望室から眺めながら、ゆったりと時間を過ごすのも良いだろう。
食事も船内レストランが趣向を凝らすようになった。「宮崎カーフェリー」ならチキン南蛮や炭火焼き地鶏、「新日本海フェリー」ならザンギ(タレに漬けこんだ鶏肉を揚げた北海道の名物料理)など、地元自慢のメニューを擁している。
さらに夏休み時期は、チョコレートフォンデュやパフェ、ハンバーガーが作れるコーナーなど、子どもが楽しめるメニューを、各社とも趣向を凝らして設置している。ある長距離フェリーの料理長に話を聞くと、「夏休みの子ども向けメニューだけは、他社に負けませんよ! ステキな思い出を作ってもらって、『来年の夏休みも絶対乗りたい!』と言ってもらいたいです」と、素晴らしい意気込みを語ってくれた。