今後の貿易の動きを見るための先行指標としては、現地法人を設立して工場や販路を一からつくる「グリーンフィールド投資」が有効だ。直接投資統計には、実質的には証券投資であるものが資本規制を回避するために紛れ込んでいるなどノイズが多いためだ。

 世界からの対中グリーンフィールド投資は大幅に減少しており、今後貿易面でのデカップリングが西側全体に広がる可能性を示している。同投資は、中国の人件費上昇や企業による中国集中リスク回避の動きを映じて10年代央から趨勢的な低下傾向にあった。直近2年間は一段と減少ペースが加速しており、22年時点で10年前に比べて78%も低い水準にまで落ち込んでいる。

 中国から米国やユーロ圏向けの直接投資のデータもデカップリングの到来を暗示する。10年代前半に急増した後は急落し、ピーク比2割程度の水準で停滞を続ける。昨年から相次ぐ中国企業の米ニューヨーク証券取引所への上場廃止の動きも拍車を掛ける。

 日本企業にとって、米国と中国の市場は同じように重要だ。現実味を増してきた米中デカップリングへの対策を急がなければならず、正念場を迎えている。

(オックスフォード・エコノミクス 在日代表 長井滋人)