無力であることも「武器」である

 無力であることも、「影響力」の源泉になりうる――。
 これは、大人になってからも当てはまることです。
 もちろん、赤ちゃんのように、泣くことで「影響力」を発揮するようなことはできません。しかし、無力であることも、「影響力」の源泉となりうるという原理に変わりはありません。

 例えば、新卒入社の若者もそうです。
 社会に出たばかりで、右も左もわからないうえに、その会社の仕事内容についてもほぼ何の知識もない。しかも、長年かけて築かれてきた社内の人間関係のなかにいきなり放り込まれるのですから、圧倒的に無力。誰かに頼らずには、仕事を進めることはできないと言っていいでしょう。

 しかし、だからこそ「影響力」を発揮することができるとも言えます。
 昭和の時代であれば、スパルタ式にしごく会社もあったかもしれませんが、今どきは、よほどのブラック企業でなければ、新入社員を大切に育てようという認識が社員に共有されているはずです。

 であれば、自分が「戦力になれていない未熟な存在である」という謙虚な姿勢で、「教えてください」「助けてください」とお願いすれば、ほとんどの上司・先輩は、「可愛いヤツだな」と思って、積極的に手を貸してくれるはずです。この時点で、すでに新入社員は上司・先輩に対して「影響力」を発揮できているということになりますし、上司・先輩の「影響力」の庇護のもとに入ることもできるわけです。

 さらに、それに対して、「ありがとうございます」と感謝の気持ちを伝えれば、相手は喜んでくれるはずです。そして、「困ったことがあったら、いつでも声をかけてね」などと応じてくれるに違いありません。このようなコミュニケーションを重ねることで、上司や先輩との信頼関係が築かれていき、その組織のなかに「居場所」を見つけることができます。そして、その新入社員は社内における「影響力」を着実に身につけ、多くの社員の協力を得て大きな仕事も動かすことができるようになっていくわけです。

自分の「現在地」を知ることが、
「影響力」を生む第一歩

 ここで大切なことが二つあります。
 まず第一に、「影響力」というものを意識することです。

 つまり、どういう態度を取れば、相手の潜在意識においてポジティブな感情を抱いてもらえるかを意識するということ。先ほどの例に即して言えば、どうすれば上司・先輩が「助けよう」という気持ちになってくれるかを考えるということです。

 初めから、「影響力」を上手に扱うことができる人などいません。
 稀に天才的とも言うべき才能を感じさせる人もいますが、おそらく彼らも試行錯誤を重ねることで、その才能を磨いてきたはず。成功するために必要なのは「才能」ではなく、「意識する」ことです。「意識」が変わることで「行動」が変わり、「行動」が変わることで「相手の反応」も変わる。まずは「影響力」というものを意識しながら、自分の行動を律することが重要なのです。

 そのうえで、第二に大切なのが、自分の「現在地」をしっかりと把握することです。