やや極端な例を出したが、十分な深さに達せず他に目移りするケースはよくみられる。たとえば、1つの組織に3~5年在籍していたとしても、十分な成長機会を掴まず、結果的には0.5にすら達していないにもかかわらず、意思決定の強度も低いまま外に出てしまう。非常に残念なケースだ。つまり、時間は本質ではない。シンプルに、「一人前」になっていない状態で転職を繰り返してはいけないのだ。

 もちろん、個々のケースはさまざまなので、短期の転職すべてを否定するわけではない(「すぐに辞めてはいけないのでしょうか」という相談もよく受ける。「一人前になる前は避けたほうがいい」が原則ではあるが、成長機会があまりにも得られにくい、働く環境が合わず心身に不調をきたすような場合は例外で、「辞めたほうがいい環境」もあることも知っておいてもらいたい)。

 ただ、客観的には1年以内(特に半年以内)の転職を3回ほど繰り返すと、市場から「ネガティブジョブホッパーでは」と見られやすいのは事実だ。守破離の「守」すらできていない中で、「青い鳥」を探して繰り返し場所を移すと、不幸になるケースが多い。

 ここでは、先ほど出した「一人前」という言葉の基準について考えよう。「市場価値」の章と連動するが、わかりやすい目安は、そのスキル単体を用いて、外部から継続的に一定の報酬を貰える(その打診がある)ようであれば、一人前といってよい。

 とはいえ、職種のタイプによっては、「スキル単体で業務を切り出しづらい」などの理由でこの基準では考えづらいケースもあるだろう。その場合、これも外に問うのがいちばん早い。「エア転職」し、市場に自身をさらけ出し、どう認知されるかを確かめるのがもっとも有効だ。

 さて、市場から認められるレベルで一定の能力の深さを得た後は、さらに縦に専門性を深めてI型を突き抜ける選択肢もあれば、横にT型、そしてH型に行く手もある。

 私個人としては、I型の生き方を何ら否定するつもりはなく、むしろ尊いものだと率直に思う。しかし、あくまで一般論として、かつビジネスパーソンのキャリアという観点から語るならば(スポーツや芸能の世界はまた違ってくるだろう)、これからの時代、I型1本でいくリスクは非常に高くなる。