経営層に近いクラスになると、ほぼH型、あるいは、後述するブリッジ型人材(HH型)が非常に多くなる。たとえば、昨今急速に市場性が高まっている、CHRO(最高人事責任者)。人事といっても、人事領域の能力だけでは厳しい。

 というのも、CHROは、「人・組織の専門家」ではなく、「経営課題を、人・組織の観点から解決していくポジション」なのだ。よって、人事領域における深い専門性など「守り」はもちろん、加えて全体戦略を高度に理解し展開できる力、あるいは、営業やマーケティングなどより現場に近い「攻め」にも一定の知見が求められる場合がほとんどだからだ。

・HH型(ブリッジ型)
 HH型(「橋」のイメージになぞらえて「ブリッジ型」とも呼ぶ)人材は、まず自分の中に複数のHをつくれているのが基本形だ。加えて、発展形になると他者の専門性をも掛け合わせていける、そんな人材を指す。自分のHHを起点に、さらに他者を巻き込みHが複数重なっていくイメージで、これからの時代はこのブリッジ型の市場価値がさらに大きく増していくことになる。

 私はブリッジ型を、複数の専門性を両手で束ねるイメージから「両利きのキャリア」と呼んでいる。たとえば、左手では、「第三者目線のコンサルティング」もできるし、右手では、「当事者として事業開発」もできるといった具合だ。何かを得たら何かを失うトレードオフではなく、複数の専門性を上乗せしていく「トレードオン」の考え方だ。

 先ほどのCHROの例をさらに高度化すると、まず、人事・組織への知見は当然深く(I型)、周辺領域でも幅広い経験を有しており(I型→T型)、人・組織の観点で事業を成長につなげられる戦略・マーケティングの知見を持ち(T型→H型)、さらには、事業フェーズの変化に合わせた人材調達や入れ替え・再編、つまり「事業再生」に近い知見もある(2個目のH)。加えて、昨今の資本市場の要請の変化に合わせた対投資家へのIR知見も提供でき(3個目のH)、さらに過去に起業や子会社の経営経験もあり、経営陣としてのビジョン発信力もある(4個目のH)……。どうだろうか。複数の専門性が重なってブリッジ型になるほど、幅広い知見を組み合わせられるため、出せる価値が非常に高いのだ。