こうした「あるあるトーク」は多くの人の身に覚えがあることなので、聞きやすい話ということになります。人は自分に心当たりや共通点がある話は無意識で共感します。こうして聞いている間にたくさんのうなずきがある話というのは、多くの場合、成功談ではなく、失敗談のほうなのです。

 ただ、リーダーとして人を導いていく立場の人は、ただ笑わせるだけでは役割を果たすことはできません。あくまでいま現在がうまくいっていないと、単なる失敗者になってしまいます。大切なのはどこの部分を話すかなのです。

 人が聞きたいのは、うまくいった後の成功の美談や苦労に対して自分がいかにがんばったのか、というお手柄話ではありません。なぜ失敗したのか、どん底からどうやってV字回復をしたのか、そのきっかけになったのはなんだったのか、という部分です。

 こういう場合、その話の中に絶対に登場させるべき人物がいます。それは、「自分に気づきを与えてくれた存在」です。

 どん底のとき、どんな言葉をかけてもらったのか?それは先輩かもしれませんし、支えてくれた後輩や部下のひと言かもしれません。近所のたばこ屋のオヤジさんの言葉でもなんでもいいのです。

書影『リーダーは話し方が9割』(すばる舎)『リーダーは話し方が9割』(すばる舎)
永松茂久 著

 大切なのは、その相手が誰なのかではなく、どんな言葉をくれ、どう心に響いたのか、の部分です。その言葉でリーダー自身が救われたとしたら、同じように聞いている人もその言葉で救われたり、なんらかの気づきをもらえる確率は大きく上がります。

 成功は自分で話す必要はありません。それは部下から見ればわかります。そうではなく、あくまで話の中に1つでも聞く人にとって気づきがあるものにしましょう。

 リーダーが部下に話をする上で大切なのは「共感できてためになる話」です。そしてそれが、あなたが部下に話をする上でのテーマづくりの軸になるのです。