成果主義で人は育たない写真はイメージです Photo:PIXTA

いまや企業では成果主義が当たりまえですが、ほとんどの場合失敗に終わっています。書籍『理想で部下は育たない』の著者であり、Web業界のリーディングカンパニーの経営者として40年間第一線を走り続けている井上氏は、「成果主義で部下のモチベーションがアップすることは絶対にありません」と断言します。その理由とは?

成果主義はなぜ失敗するのか

 一般家庭にパソコンが普及しはじめた1990年代後半。アメリカのシリコンバレーではGoogleやAppleなど様々なIT企業が急成長し、世界中から注目の的になっていました。そのシリコンバレーで主流になっていたのが成果主義です。

 同じ時期にバブルが崩壊し、苦境にあえいでいた日本企業は、シリコンバレーで成功したIT企業にならい、こぞって成果主義を導入しました。ところが多くは失敗に終わり、かえって自分たちを窮地に追い込む結果となります。その代表的な例を挙げておきましょう。

▼富士通
 1993年に、社員のモチベーションを引き出し、競争力を高めることを目的に、年功序列を全廃し、成果主義を導入。ところが、失敗することがマイナス評価につながるため、社員のチャレンジ精神が失われ、ヒットする新商品が生まれなくなる。また、顧客のアフターサービスなど、数字にあらわれない業務をおろそかにする慣習が社内に浸透し、クレームが後を絶たず、顧客が離れていくことになった。結果的に大きく業績を落としてしまい、成果主義を撤廃した。

▼日本マクドナルド
 社員同士の競争意識を高め、若手社員の実力を伸ばすことを目的として、2006年に成果主義を導入し、定年制を廃止した。しかし、多くのベテラン社員が自分の成果だけを追及し、若手社員の育成を放棄するようになったため、思惑とは裏腹に人材がまったく育たなくなってしまった。わずか6年後の2012年に定年制を復活させた。

 この他にも、資生堂、三井物産、小林製薬など、名だたる大企業が、2000年~2010年の間に成果主義に見切りをつけ、これまでの評価制度に戻しています。