もちろんお互いに弱点やちがいがあって、それを埋めあわせる。そのことを否定しているわけではない。長い目で見ていろいろな役割を果たせるようにしておいて、ふたりでいっしょにコート全体をカバーしなければならないということだ。パートナー関係によって、人が実際に変わることはない。相手のニーズに配慮するように迫られはするけれど、それでも変わりはしない。出会ってからの33年間でバラクはたいして変わっていないし、わたしも変わっていない。

 変わったのは、ふたりのあいだにあるものだ。相手がそばにいることを受け入れるために重ねてきた、数えきれないほどの調整、妥協、犠牲。バラクとわたしを合わせた――わたしたちふたりの――ハイブリッドのエネルギーは、いまや数十年の戦闘に耐えてきたベテランだ。

書影『心に、光を。不確実な時代を生き抜く』(KADOKAWA)『心に、光を。不確実な時代を生き抜く』(KADOKAWA)
ミシェル・オバマ 著、山田文 訳

 知りあった初日にふたりのあいだに生まれたわずかな心の動きが何であれ、握手して話しはじめた瞬間に植えつけられたお互いへの好奇心の種が何であれ、それこそが、長年のあいだにわたしたちが育て、成熟させて、確かにしてきたものにほかならない。これはいまも進行中の奇跡で――対話はまだつづいている――、わたしたちが住む家だ。彼は彼。わたしはわたし。いまはお互いのことを知っているだけ。とても、とても、とてもよく。

 わたしはいつも、バラクとの人生のきらびやかな面だけでなく、ふたりの本当の姿を見てもらおうとしてきた。バラクとわたしが――切実に必要だった――夫婦カウンセリングを受けたことも書いた。娘たちがまだ幼く、バラクもわたしもいっぱいいっぱいになっていたころで、お互いに怒りっぽく、よそよそしくなっていた。夫にうんざりして何度も窓から突き落としたくなったことも冗談として語ってきた。いまでも、たぶんこの先もずっと抱く、ありきたりでつまらないさまざまな憤りのことも。本当に親密な関係はしゃくに障ることもある。それでも、わたしたちはいっしょにいる。