日本には、老舗のゼブラ企業も多い

――貴社の日本での活動は、どのように始まったのでしょうか。

 私は、商社で勤務をしていましたが、社会的インパクトのある活動にも関心があり、インパクト投資の動きが顕在化した頃に、そうしたことを学ぼうと思い、スペインのビジネススクールIESEに留学しました。

 留学後、海外でインパクト投資の世界に飛び込んだ後、形成され始めていた日本のインパクト投資業界に入りました。その後仕事を通じて知り合い、同じような問題意識を持っていた陶山祐司(すやま・ゆうじ)と共にいろいろな人と交流する中で、阿座上陽平(あざがみ・ようへい)とも意気投合しました。阿座上は、事業会社でブランディング等の仕事に就いてきたのですが、そこで社会的インパクトを与える事業を模索していたのです。

 ちょうどその頃、私がイギリスの会合に参加した際に、ゼブラズユナイトのメンバーに偶然会ってゼブラ企業の話を聞きました。私たち3人が考えていたコンセプトとまさにピッタリ合っていたので、2019年に日本の支部として「Tokyo Zebras Unite」を立ち上げたのです。

 最初は、日本社会に、ゼブラ企業のコンセプトを問う活動です。始めてみると、想像以上に問い合わせがあったり、SNSやメディアで多く取り上げられたりしたので、啓蒙だけでなく、実際に日本でのゼブラ企業の育成を事業としていこうと考え、2021年に株式会社Zebras and Company(ゼブラ アンド カンパニー)を設立して、現在に至っています。

――どういう活動をしているのですか。

 ゼブラ企業の認知拡大・育成に資する、あらゆることをやっています。ゼブラ企業への投資やその他の資金調達スキームの開発、事業ノウハウや人材などの経営資源の提供、それを実現するコミュニティづくり、そうした活動で得た知見を言語化したり体系化したりして、社会に共有していくことにも注力しています。本書の発行もその一貫です。

 図に示したように、これらの活動を通して、ゼブラ企業を社会に実装し、「優しく健やかで楽しい社会」を実現したいと思うのです。

Z世代に支持される「ゼブラ企業」とは何か?

――貴社の投資先は、どういう企業ですか。

 現状3社あります。1社は、小林味愛(こばやし・みあい)さんが創業した福島県国見町の「陽と人(ひとびと)」という会社です。同社の事業は、主に「地域の農業サポート」と「女性向け製品の開発・販売」の2つで、農家の暮らしを持続可能にしていこうとしています。

 前者では、果物農家の販売支援をしています。後者は、農産物である柿を主原料にして、女性のデリケートゾーンをケアする製品を開発し、オンラインで全国販売しています。女性特有の健康課題をテクノロジーの力で解決する、いわゆるフェムテック事業です。

 農家の収益を持続的に高めると同時に、製品を通じてジェンダー問題の解決を図るところに社会的インパクトがあります。女性をケアする製品を販売することで、女性の心と体を健康にしていき、女性にとって生きやすい社会をつくりたいと考えているんです。

 女性向け製品の開発・販売事業が大きくなっていけば、生産数を増やし、販路を広げていくために大きな資本が必要になっていくでしょうから、株式上場も考えられます。農産物の販売支援は少しずつの成長で、時間軸の長い事業になります。ある程度の規模で、地域を着実に支えていく形です。

 もう1社は、「エッセンス」という会社です。創業者の西村勇哉(にしむら・ゆうや)さんの社会課題意識として、日本では大学にある知的財産があまり社会に知られていなくて活用されていない、ドクターが十分に評価されていないということがあり、これをどうにかしたいということで起業されました。そうした知見を社会で共有できるようにするプラットフォームを構築している会社です。

 同社は独特なアルゴリズムを開発しています。一般的な検索サイトのアルゴリズムでは、ユーザーが見たいと思われる情報を選択して表示しますが、それによってそれ以外の情報から隔離されてしまう「フィルターバブル」の弊害があります。同社はこれを回避するアルゴリズムを開発していて、そこにも社会的インパクトがあると評価して投資することにしました。

 さらに、ミャンマーで事業を展開する会社にも投資をしていますが、政治的リスクがあるので詳細は公表していません。

――貴社はどのように収益を上げているのでしょうか。

 ケース・バイ・ケースで、さまざまな方法です。前述したVCが狙うキャピタルゲインを否定するわけではなく、そうした形もあり得るかもしれないのですが、それを追求するわけではありません。投資した企業のレベニューシェアやプロフィットシェアという選択肢もあり得ます。当社のノウハウをもとに経営支援をして、対価としてフィーを得る事業もあります。

 相手先企業の事業の性質や経営の仕方、どんなフェーズなのかによって最適なファイナンスのデザインは変わってきます。投資も経営支援も、それらを通じてゼブラ企業の社会的認知が広がっていくと考えています。

――本書では、いくつかの老舗企業もゼブラ企業として紹介されています。これは、どのように考えたらいいのでしょうか。

 アメリカでは、ユニコーン企業とは違った形のスタートアップとしてゼブラ企業の考え方が始まったのですが、冒頭お話しした4つのマインドセットに照らしてみると、日本の老舗企業にはゼブラ企業の経営をしている企業が多いことに気がつきました。

 すなわち、「事業成長を通じて、よりよい社会をつくることを目的としている」「時間、クリエイティビティ(創造性)、コミュニティなど、多様な力を組み合わせることに取り組んでいる」「長期的で、インクルーシブ(包摂的な)経営姿勢を大切にしている」「ビジョンが共有され、行動として一貫している」です。この4つの特徴を持っているからこそ、地域社会やお客様、従業員から長く愛され、オーナーという株主に継続的にリターンがあります。

 したがって、まったく新しい会社をつくっていくのではなく、以前からあった会社を再発見していくことで、ゼブラ企業を発掘できると考えたのです。いわゆる100年企業のような日本企業には、ゼブラ企業が多く存在するのです。

 この事実を、アメリカのゼブラズユナイトのメンバーに話したら、とても驚いていました。国としての歴史の違いですね。

 本書では、スタートアップから老舗企業まで、日本とアメリカの、いろいろなタイプのゼブラ企業とその経営者を紹介しています。

――本書の最後の章では、キャリアをゼブラ企業で積むことを話し合っています。その良さを教えてください。

 キャリアの最初から、自分にとっての本命というか、本物の仕事で仕事をすることは、快適だと思います。

 経済性と社会性を同時に追求する仕事に就きたいと考える人は増えていますが、そうした企業に巡り合えずに葛藤を抱えている人は多いと思うのです。ゼブラ企業を表明している企業に最初から就ければ、そうしたモヤモヤがなく、生き生きと働けるのではないかと思います。

田淵良敬(たぶち・よしたか)
Zebras and Company 共同創業者・代表取締役。米国Zebras Unite役員理事
同志社大学を卒業後、日商岩井株式会社(現・双日株式会社)に入社。IT、航空機ファイナンスを行い、米国ボーイング社にてアジア・パシフィック地域のマーケティング部門で経験を積んだ後、再生可能エネルギー投資・事業開発に従事。その後、LGT Venture Philanthropyに移り、東南アジアの起業家に向けたインパクト投資を行う。その後ソーシャル・インベストメント・パートナーズを経て、独立。2021年3月にZebras and Companyを立ち上げ、ゼブラ企業への投資・経営支援を行う。IESE Business SchoolでMBA取得。Cartier Women’s Initiative東アジア地区審査員長。一般社団法人Tokyo Zebras Unite、株式会社Zebras and Companyの共著として、日本・世界を合わせた「30のゼブラ企業」を掲載した『ZEBRA CULTURE GUIDEBOOK Vol.01 ゼブラ企業が分かるガイドブック「ゼブラ企業カルチャー入門」』を2023年8月刊行。