ユニコーン企業とは異なる
事業目的や成長志向

――発祥はアメリカですね。

 グーグル(現アルファベット)やフェイスブック(現メタ)などに代表されるテクノロジーを核に急成長を志向するスタートアップ企業と起業家が、2000年前後に脚光を浴びました。彼らを資金面で支えたのが、ベンチャーキャピタル(VC)です。

 一般にVCは、投資家から10年間期限で集めた資金でファンドをつくり、スタートアップに投資し、急成長を後押し、その企業の上場や他社によるM&Aの際に株を売却してキャピタルゲインし、ハイリターンを投資家にもたらすというモデルです。VCは出資後3年間程度で成果を出すように起業家に要請し、実際それに応えるスタートアップがあります。その典型が、ユニコーン企業です。

 “ホームラン級”の大成功で注目を集めますが、実際の数は少ない。現状でも世界で1400社強で、スタートアップ全体のコンマ数パーセントです。ほとんどのスタートアップが、このモデルには適合しません。時間をかけて、じっくり成長していく類いの企業が多いのです。そして、VCの投資間尺に合わないスタートアップは、成長資金の調達が難しい。

 実際に資金調達に苦しんだ経験を持つアメリカの4人の女性起業家が、こうした風潮に危機感を覚え、それを打ち破るべく、2017年に提唱した概念がゼブラ企業です。彼女たちは、「ゼブラズユナイト(Zebras Unite)」という組織をつくり、ゼブラ企業を支援しています。現在、世界中で25以上の支部、2万人以上がメンバーとなって、大きなムーブメントになっています。

――本書では冒頭の「セッション0」で、ゼブラズユナイトの共同創業者マーラ・ゼペタさんが創設についての思いや、ユニコーン企業との違いなどを詳述していますね。

 ユニコーン企業と比較したゼブラ企業のキーワードは、表の通り、「持続的な繁栄」「相利共生」「公共」「コミュニティ」「質的」などです。さらに投資家視点を加えれば、前述したようにVCの時間軸が基本的に投資して回収までが10年間であるのに対して、ゼブラ企業への投資家の時間軸はより長期です。

――ユニコーン企業とは違った存続・成長を目指すスタートアップのゼブラ企業。経済価値創出に加えて社会価値も追求、事業を通して社会課題の解決を図るという志向は、投資の世界ではESG投資や、さらに社会にとって良いインパクトを追求する「インパクト投資」があると思います。

 そうですね。ただ、インパクト投資を行う投資家も、相応のリターンを求めています。私は長くインパクト投資の世界に身を置いていました。この世界のプレーヤーの多くは、その前のキャリアでVCとして高いリターンを求める投資を行っています。単純なVC投資よりも、社会により良いインパクトをもたらす事業や企業に投資しようと考えてインパクト投資に移るのですが、とはいえ、それなりのリターンを求め、時間軸も投資先には3~5年というのが一般的です。

 こうした変化は、さまざまなスタートアップや起業家がいる中で、投資のあり方や投資家が多様化してきているということだと思います。

――ハーバード大学のマイケル・ポーター教授は2011年にCSV(共通価値創造)の論文を発表しました。経済価値と社会価値を同時に実現することを推奨するもので、学者だけでなく経営者や投資家を含めて多くの人が読みました。こうした流れは、ゼブラ企業にも影響を与えているのでしょうか。

 直接的な影響があるかどうかは不明ですが、世界的な潮流としての影響はあると思います。ポーター教授のCSV論文が発表され、その後、2013年に当時G8議長国だったイギリスのデービッド・キャメロン首相が社会的インパクト投資を呼びかけ、2015年に国連でSDGs(持続可能な開発目標)が採択され、以前から確立されていたESG投資に勢いがつき、株主へのリターンだけを重視した経営に対する見直しの流れができてきたと思います。そして、ゼブラズユナイトが設立されたのが2017年です。

――アメリカの非営利団体Bラボが、社会や環境に配慮した事業活動で一定の基準を満たした企業を認証する「B Corporation(Bコーポレーション、Bコープ)」と似ているように思えますが、どうでしょうか。

 重なる部分はありますね。事業を通じて、社会にインパクトを与える企業という点は共通します。相違点を言えば、BラボがBコープを認証する際に設定している、事業活動での外形的・量的なチェックポイント、例えば従業員のジェンダーバランスとかサプライチェーンにおける人権などの規定に似たものを、ゼブラズユナイトなどが設定しているわけではありません。最初に述べましたように、マインドセットをより重視しているのです。

――ミレニアル世代やZ世代の人口比率が高まっていることも、こうした企業観に影響していますか。

 それは、確実にあります。私たちが日本で活動していく中で、強い共感や関心を示してくれる年齢層の中心は、ミレニアル世代やZ世代などの若者です。背景としては環境保護とか、社会にインパクトをもたらしたいと考える人の比率が若者に多いからだと思います。

 ミレニアル世代の人たちは、その前の世代がつくってきた社会で育っていく中で、良い面も享受しているとは思うのですが、一方で、負の面もしっかり見てきているんです。最たるものが環境破壊であり、気候変動ですね。そうしたことが自分たちの人生において、長期で悪影響を及ぼすと認識しているので、自分事の問題として捉えているのだと思います。

 ですので、職業選択の段階において、社会的課題の解決に寄与する仕事に就きたいと考える若い人は確実に増えています。これは、アメリカでも日本でも違わない傾向です。