現実的には平和とは力の均衡状態のことを言う。今回のウクライナ戦争は、プーチン氏がウクライナにおけるNATOとロシアの均衡状態が崩れたと判断して起こした。むき出しの力を使って状況を変えようとするリーダーの置かれた立場を理解して手を打たなければ、現実的で持続する平和はやってこない。

 そのために地政学的理解、つまりロールプレイング的思考訓練が必要なのだ。善悪でリーダーを判断して勧善懲悪を期待してはいけない。NATO側にもアメリカにも、国益・名誉・恐怖から来る地政学的判断がある。そこも理解して我々日本人は世論やビジネスの構築を目指すべきだろう。

 ウクライナ戦争に勝るとも劣らないような地政学的リスクが、我々が住む日本近辺にもないわけではないのである。

「地理」が「6つの要素」すべてを決める

 我々は世界中ほぼどこにでも旅ができて、ほぼ世界中からスマホ一つで色々なものをオーダーできる時代に生きている。そのため、「もうテクノロジーは地理を乗り越えてしまった」と思いがちである。しかし、地理による運命を書き換える能力はまだまだ我々人類は手にしていないのだ。

 スマホのおかげで世界中からオーダーできると思われている品々は、デジタル化できる商品を除いて、ほとんどが海を渡って我々のもとに届いている。デジタル情報の99%も海底ケーブルを通じて届いている。海を制するものが世界を制する時代は変わっていないのだ。

 一方で個人で旅行はできるが、国として物理的に、欧州や北米に引っ越せるわけではない。後述するが私はシンガポール建国の父である故リークワンユーさんから三度も「今の地理的条件で日本が小さく、貧しく、老いていくのは相当まずいよ。日本は引っ越せないんだよ」と指摘された。地理的な運命を、今の人類が乗り越えることは難しいのだ。

 ウクライナ戦争も台湾情勢も朝鮮半島情勢もすべてが地理的な運命から来ている部分が大きい。どんな国に周りを囲まれるのかは変えられない。

 天候は地理に左右される。日本に台風が来るのも、台風発生地帯より南に位置するシンガポールで台風がないのも地理のせいだ。ロシアのほとんどが極寒の地にあり、アメリカが肥沃で温暖な土地を多く持つのも地理的条件のせいである。今後は期待したいが、気候を自在に変化させるようなテクノロジーをまだ人類は持っていない。

 地理的な位置で国民性も影響を受ける。大陸的、島国根性、半島感情など色々言われるが、それらも一理ある。日々、目に入る光景や暮らしの風景や人の出入りは地理に左右される。