関西国際空港で大被害

 実際に、二〇一九年九月の「令和元年房総半島台風(台風第一五号)」では、強い勢力の台風が東京湾を北東に進み、その中心に近く、進路の右側にあたる房総半島で暴風による甚大な被害が発生しました。

 さらに、台風で警戒したいのが「高潮」です。二〇一八年の台風第二一号では、暴風による「吹き寄せ効果」と気圧が下がることによる「吸い上げ効果」の二つが重なって大阪湾沿岸で高潮が起きました。

 関西国際空港がちょうど台風の中心のすぐ近く、進路の右側にあたっていたため、高潮に高波も加わった結果、空港は大変な被害になったのです。

 これらのことから、「台風の進路に対してどこに自分がいるのか」を見極めた上での対策が重要です。

温帯低気圧になっても安心できない

「台風が温帯低気圧になったからもう安心」――誤解されることが多いのですが、台風が温帯低気圧になったからといって弱まるわけではなく、全く安心できません。

 台風は海からの水蒸気などをエネルギーにして発達します。そのため、上陸するとエネルギー源を失って弱まります。一方で、台風が日本付近まで北上してくると、北にある寒気に近づきます。

 すると、寒気と台風の暖気がぶつかり、台風が前線の構造を持つようになるのです。これが、いわゆる台風の温帯低気圧化です。

 温帯低気圧は南北に温度差があり、上空で気圧の谷が西から近づくときに発達します。台風と温帯低気圧の違いは、あくまでその構造だけであり、中心気圧などで基準があるわけではありません。

 温帯低気圧は広い範囲で風が強まり、発達に必要なエネルギー源も台風とは異なるので、実際に台風が温帯低気圧になってからのほうが低気圧として発達したケースもあるのです。

 そのため、台風が温帯低気圧になったあとでも、暴風や高潮などによる被害が発生することがあります。

 気象庁発表の「台風情報」は、現状では温帯低気圧化すると情報が更新されなくなってしまうのですが、温帯低気圧でも注意・警戒すべきことは「気象情報」で伝えられています。

 嵐が完全に過ぎ去るまでは、最新の気象情報を確認し、安全を確保してお過ごしください。

(本原稿は、荒木健太郎著読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなしから抜粋・編集したものです)

荒木健太郎(あらき・けんたろう)

雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・博士(学術)。
1984年生まれ、茨城県出身。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事したあと、現職に至る。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、気象災害をもたらす雲の仕組みの研究に取組んでいる。映画『天気の子』(新海誠監督)気象監修。『情熱大陸』『ドラえもん』など出演多数。著書に『すごすぎる天気の図鑑』『もっとすごすぎる天気の図鑑』『雲の超図鑑』(以上、KADOKAWA)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)、『雲を愛する技術』(光文社新書)、『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)、新刊に『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(ダイヤモンド社)などがある。
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