人手不足倒産は増える
政府は格差対策の強化を
今後の注目点は、賃上げが息の長いものになるか否かだ。楽観はできないが、賃上げが持続的なものになる可能性はある。
4~6月期、実質GDPは前期比年率で4.8%増加した。中国経済の減速、米欧の金融引き締めの影響から機械受注が減少するなど、企業の設備投資に一部で足踏み感は出た。ただ、全体として設備投資は緩やかな持ち直し基調を保っていると考えられる。生産性向上を目指してロボット導入などを重視する企業も多い。
中国の不動産バブル崩壊による経済減速が一段と鮮明になれば、その影響も出てくるだろうが、今のところ日本企業の賃上げや労働力確保への危機感は強いと考えられる。
持続的な賃金上昇こそ、わが国の産業構造を変化させる。1990年代以降の米国ではエヌビディア、アマゾン、グーグル、メタ(旧フェイスブック)などが創業した。リーマンショック後、世界経済のデジタル化は加速し、IT企業の業績は拡大。この分野を中心に賃金は上昇し、世界から人材が引き寄せられた。
わが国でもAI(人工知能)をはじめとしたデジタル分野に商機を見いだし、世界に見劣りしない賃金を提示して国内外から優秀な人材を獲得する企業が増えてしかるべきだ。そうした変化こそ、より効率性の高い分野への労働力の移動を促進するだろう。
資本主義経済では、市場原理を通して労働力はより高い賃金を支払うことのできる成長力の高い企業、そうした企業の多い産業に移る。それと引き換えに、十分な賃金を支払うことが難しい企業は淘汰される。わが国の経済は、本来あるべき姿に向いつつある。
それに伴い、人手不足倒産に陥る企業は増えるだろう。経済的な格差が拡大しないようにするために、政府がリカレント教育やセーフティーネットを強化しなければならないことは言うまでもない。