建設、運輸、介護を筆頭に
産業界全体で「人手不足」

 わが国でも米国や欧州を追いかけるように、人材確保には賃金の引き上げが避けられないと腹をくくる経営者は増えている。それに、働く人の考え方も大きく変化している。新卒で就職した企業に定年まで勤め上げる意向を持つ人よりも、条件が合えば転職したいと思う人は多い。新卒で外資系企業に就職する学生も増えている。

 就職後に、自己研鑽(けんさん)を重ねて専門的な知識を習得し、ステップアップする人も増えた。仕事のやりがいや好条件を求めて、短期間のうちに転職を繰り返す人も散見される。わが国の労働市場の流動性は一昔前に比べればずいぶん高まり、雇用慣行も崩れ始めている。

 こうした変化に対応するため、企業は賃金を引き上げざるを得ない。アンケートなどからも、企業の危機感は確認できる。2022年9月に日本・東京商工会議所が公表した調査結果によると、建設、運輸、介護を筆頭に産業界全体で過半数の企業が、人手が不足していると回答した。わが国労働力の減少は深刻だ。

 抜本的な対応策として、賃金を引き上げ、正社員を増やす企業は急増している。福利厚生の充実やフレックスタイムなど柔軟かつ多様な働き方の導入、研修制度の強化に取り組む企業も多い。

 意欲ある学生を採用して、可能な限り長く働いてもらうためにインターンシップ(学生に実務の経験を積んでもらう)制度を実施する企業も増えた。ところが、そうした変化を背景に、人事担当者の確保という課題も顕在化した。人事コンサルティングの分野でも、専門家への需要が急増している。

 反対に、賃金を引き上げられずに淘汰される企業も増えている。帝国データバンクによると23年1~6月期の「人手不足倒産」は110件。半年間の実績として過去最多だという。このうち従業員や幹部の退職、離職をきっかけとする倒産が33件あった。