なぜ日本だけ過去30年近く
給料が上がらなかったのか

 国税庁の「民間給与実態統計調査結果」によると、1990年、わが国の平均給与は425万2000円だった。バブル崩壊後も賃金は一時、緩やかな増勢を保ち、97年に467万3000円に上昇した。49年以降の過去最高水準だった。

 ところがその後、わが国の賃金は右肩下がりで推移した。97年に発生した金融システム不安によって国内の景気は停滞し、需要の減少は企業の収益を下押しした。2002年に不良債権の処理を進めるための政策(金融再生プログラム)が実施された後も、景気は停滞気味に推移した。

 資産価格の下落や長期にわたる景気の停滞に直面した企業経営者は、リスク回避の心理を強めた。経済全体で「羹(あつもの)に懲りてなますを吹く」とでもいうべき心理は強まった。企業はコストカットを進める一方、労働組合は賃上げ要請を弱めた。こうして新卒一括採用、年功序列、終身雇用からなる雇用慣行は温存された。他方、経済全体における労働力は効率性の低い分野に固定されたといえる。賃金は停滞気味に推移し、労働市場の流動性も高まりづらい状況が続いた。

 対照的に、米国など海外では経済成長によって賃金が勢い良く上昇した。1990年代、米国ではIT革命が起きた。米国企業は半導体やパソコン、スマホの設計開発などソフトウエア分野に経営資源(ヒト・モノ・カネ)を再配分した。その生産を、中国や韓国、台湾の企業が請け負った。こうした分野では経済運営の効率性は高まり、より高い賃金を求めて転職する人は増えた。

 また、2000年代のドイツでは、当時のシュレーダー政権が労働改革を進めた。同政権は失業保険の給付期間の短期化や、職業訓練制度(いわゆる学び直し)を拡充するなどして、人々がより高い賃金を目指す環境を整備した。

 その後、主要先進国では少子高齢化が加速した。人手不足はわが国だけでなく、主要先進国に共通の課題である。必要な労働力を確保するために、より高い賃金を提示する米欧の企業は増えている。