財務畑出身「中国最強のプロ経営者」
タオバオ・天猫を育て、“単身者の日”商戦を仕掛ける

 張勇氏は財務畑出身の経営者で、これまで「中国最強のプロフェッショナル経営者」と言われてきた。大学卒業後に公認会計士として世界5大会計事務所の米アンダーセンや米プライスウォーターハウスクーパースを経て、当時米ナスダック上場企業だったオンラインゲーム会社「盛大網絡」に勤めていたときに馬氏に引き抜かれ、2007年にタオバオのCFOとして入社。2008年に同サービスのCEOに就任すると、C2C主体のタオバオの「ブランド化」を推進し、その後傘下の「天猫 Tmall」(以下、「天猫」)を一大ブランドB2Cサービスへと育て上げた。

 先にも書いたように、さらに2009年には、「1111」という数字が並ぶことから「単身者の日」(中国語では「光棍節」)と呼ばれていた11月11日を「オンラインショッピングキャンペーンの日」にすることを考案。

 この「ダブル11」キャンペーンは初年度こそキャンペーン参加店はわずか27店舗と振るわなかったが、この日だけで5200万元(当時のレートで約6億8000万円)を売り上げる。そして、その翌年にはその売り上げはなんと9億3600万元(同約115億円)に膨れ上がり、馬氏を唸らせた。その後「ダブル11」は倍々ゲームの成長を遂げ、今ではすっかり中国の全商品ビジネスに根付いている。

 張氏退任の発表後、その功績としてもう一つ高く評価されているのが、2013年から足早に進められた、タオバオのモバイル化である。中国は2011年ごろから都市生活者を中心に生活のモバイル化が進んだ。筆者の生活体験を振り返っても、2013年ごろにはオンラインショッピングはもちろん、自宅の光熱費や家賃までモバイルペイメント利用が普及しつつあった。張氏はそれに合わせて、従来PCが主体だったタオバオのサイトのモバイル移行を進めており、この時、技術部門の要となっていたのが呉泳銘氏だったとされる。

 タオバオ(及び天猫)はモバイル化後、ますます手軽に、また身近になり、特に地方や農村地区ではPCを利用することなく、初めて手にしたスマホでネットを利用する人たちが激増したことも相まって、売上増へと結びついた。2015年の「ダブル11」では912億元(同約1兆8000億円)を売り上げ、1日の商業売り上げとしてギネス世界記録に登録されている。

 明らかに2010年代のアリババは張勇氏の時代であり、馬氏をして「世の中のCFOが必ずしもCEOに適任とはいえないが、『逍遥子』(張氏のアリババ内での呼び名)だけは別格」と言わしめた。