訳を詳しく訊けば、「大連で買った骨董品がセキュリティに引っかかって、一晩拘留されちゃって。電話しようにも携帯が電池切れで、散々だった。仕方なく翌日拘留が解かれて、そのまま青島行きのチケットを買い、帰ったのだ」という。

「骨董品が没収されなかっただけでも幸いなので、私のことはあまり気にしないで下さい」と、肖は優しく張社長を慰めた。二人の関係は何も起きなかったかのようにまた続くことに。

 それからというもの、張社長の態度はどこか冷めたようで、以前ほど自分に関心を持たなくなり、数日も連絡が取れないことが何度かあった。

 肖はまた不安になった。愛人になれば月10万元(200万円)のお小遣いが入るし、働かなくてもシンデレラのように華やかで贅沢に暮らせると思い描きつつ、これまで、張社長に喜ばれようと一心で頑張ってきた。就活はおろかバイトもせず、収入ゼロで、生活は未だに田舎の両親が送ってくれる少額のお金に頼っている。

 娘が一生懸命に就活していると思いこんでいる両親は、この頃なお心配して、頻繁に電話しては「就職は?」と訊いてくる。それに鄭から借りた家賃も抱えているし、またこうも話が長引くのは、ほかに愛人職競争者が現れたのかもしれないし……。早く愛人に採用されなければ、どんどん窮地に陥(おちい)ってしまう。

 自分から出撃するしかないと、肖は意を決し、勇気を振り絞って張に電話した。――「一体いつになったら私に『身分』を与えてくださるの?」と。

「今時の女は、誰もが金目当てで俺の愛人になろうとしているんだから。俺はもう破産して無一文の身になった。愛人の話はもうなかったことにしてくれ」

 そう言っている張社長の声は、以前と変わらない覇気があって、無一文男に堕落した様子など少しも感じさせない。肖は信用せず、逆に「きっと私を試そうとしているのだ」と思った。

「私は違います。金目当てなんかじゃなくて、ほんとにあなたを愛しちゃいました」
「無一文の俺でも?」
「もちろん、いつまでもずっと愛し続けます」
「ほんとかい? 俺は今、急用で818元(約1万6000円)が必要なんだけど」