容疑者、石堅(シージェン)。銀行名義人「石清」の20代の息子である。河南省の農民で中学校を中退してから大連に出稼ぎに来たが、昨年腰を怪我して現在休養中である。退屈な時間を潰すためにネットカフェに入り浸って、「愛人募集」もある種「悪ふざけ」のつもりで投稿したが、まさか引っかかる人がいるとは予想してもいなかった。肖に偽名を名乗ったのも、多少お小遣いを騙し取るつもりがあってのこと。
石堅はのちに、詐欺罪で再逮捕された。
被害金額2339元(約4万7000円)という詐欺事件。通常ならば警察に通報してもまともに取り合ってもらえそうにない金額かもしれません。ましてメディアが報じるなんてなかなかないでしょう。でも「愛人に応募して騙された」と聞けば、俄然身を乗り出して「わけ」を知りたくなるのが人情。「愛人」も「愛人募集」も公序良俗に反する行為で、十数年も社会倫理教育を受けてきたはずの新卒の女子大学生がそれに「応募した」とは、私も最初驚いて理解に苦しみました。
事件の被害者である肖は、卒業が目の前に迫っても就職は一向に決まらず、「コネ社会」と言われる中国では、貧しい農民である両親は頼りにならないし、かといって能力のない自分が自力で生活費の高い大都市重慶で生きていくのは、大変なプレッシャーがあります。
とりわけ、いまどきの「一人っ子」世代は、貧しい家庭に生まれたとしても、けっこう大事に育てられていて、「何の心配もない」「何もしなくて良い」といわれ「赤ちゃん」のまま大人になり(中国語で「巨嬰――巨大な嬰児」と呼ばれる)プレッシャーに耐える精神力など育つわけもありません。
もう一度事件の経緯を振り返れば、本事件の一番の背景は「就職難」なのですが、一方で肖の「巨嬰体質」がいろんなところに現れています。
たとえば、肖は「愛人募集」を見つけて「目を光らせた。もし自分が応募して審査に通れば、このアパートに住まなくて済むだけじゃなく、きっと彼が開発した不動産物件から、好みの高級マンションを自由に選んで住むことができるに違いない」との言葉は、のちに本人が警察に話したもの。貧困と拝金主義のせいで、「ちょっと金をちらつかせればすぐ飛びついてくる女の子がいくらでもいる」という詐欺師の弁も聞いたことがあります。
そして努力するよりは「成功への近道」を探すというのも、また一人っ子世代の特徴ではないでしょうか。詐欺師が提示した月10万元のお小遣い、一年間勤めれば200万元のボーナスなどの「愛人待遇」を聞いて、肖が真っ先に思ったのは、「大企業の社長でも望めないような条件ではないか。これほど手厚い待遇ならばシンデレラのように暮らせるし、ルームメイトの鄭が今の会社で白骨になるくらい働いても手にできないはずだ」。楽にお金をもらって良い生活をする。そういう思いが周りの人と比べて更に「幸福感」を増すのでしょう。
当然、詐欺師が悪い。ただ、この事件の加害者・石堅の供述――「“愛人募集”はある種“悪ふざけ”のつもりで投稿したが、まさか引っかかる人がいるとは予想もしていなかった」を読めば、やはり被害者に反省すべき点が多いように思えました。