安浪:そうそう。だから最難関を目指したいです、というご家庭であってもやり方は一通りでなくて、親は低学年から塾に行かせたいけれど、本人はそれほど興味を持ってない、というなら、とりあえず算数だけ磨いておくのはどうですか?とか、それこそ新4年になったら最高レベル特訓をとって、塾についていくのがいいんじゃないですか、とアドバイスすることもあります。

ラットレースみたいにならない

矢萩:僕は今大学院でリベラルアーツの講義を担当したり、キャリアコンサルタント向けの講座を担当しているんですけれども、そういう社会人教育の現場や前線で感じるのは、従来型の受験勉強をガリガリやってきた人たちが、今30、40、50代になって、会社で有用感を感じられなかったり、どうしたらいいかわからなくなっていることが多いんですね。そのような場合、何をリスキリングしなければいけないのか、みたいな問題にかなり直面しています。

安浪:塾なし受験のいいところは塾のカリキュラムは無視できるので、常に追われながらやる状態を避けられることですよね。同じ中学受験コンテンツを扱うにしてもラットレースみたいな感じにはならない。もちろん家庭だけでは難しい部分もあるのですが、家庭教師や個別ですと本人の学力を最大化できるような指導はできるんです。先ほど矢萩さんがおっしゃったように大手のやり方にマッチしている子もいるんですが、そういう子は多分上位校に行くことになると思うんです。マッチしすぎているからこそ、それ以外の頭の使い方ができなくて、受験マシーンのようになってしまう子もいますが。それ以上に問題はやはり下のほうのクラスにいる子ですよね。大手が用意するパッケージはどうしても上位層向きのものになっているから、それに無理やり食らいつこうと思うと完全にインプット暗記型の勉強になってしまう。大手塾のスキームをご家庭が使うのはいいんだけど、やっぱりわが子の現在の立ち位置というのをある程度客観的に把握したうえで大手の枠組みを利用しないと、やっぱり潰れちゃうなって思いますよね。

矢萩:もちろん一問一答型の知識にも重要なものはあるし、思考のリソースになるような知識もたくさんあります。だけど、社会に出てほぼ役に立たないような知識や、考えを偏らせてしまうような知識が大量に混在していて、それを暗記させるのが中学受験の世界。これは高校受験も大学受験もそうなんですけれども、そのあたりがまだ受験業界で仕分けできてないんです。このズレを解消するには、まず学校が変わって、入試問題が変わって、というプロセスがある。その間に子どもはどんどん成長するので、そのずれた期間をどう埋めてあげられるのか、ということを親御さんはもちろん、我々も真剣に考えた方がいいだろうな、と思っています。

(構成/教育エディター・江口祐子)

安浪京子(やすなみ・きょうこ)
「きょうこ先生」として親しまれている中学受験専門カウンセラー、算数教育家。佐藤亮子さんとの共著『親がやるべき受験サポート』(朝日新聞出版)が好評。最新刊は『中学受験にチャレンジするきみへ 勉強とメンタルW必勝法』(大和書房)。
矢萩邦彦(やはぎ・くにひこ)
「知窓学舎」塾長、多摩大学大学院客員教授、実践教育ジャーナリスト。「探究学習」「リベラルアーツ」の第一人者として小学生から大学生、社会人まで指導。著書に『子どもが「学びたくなる」育て方』(ダイヤモンド社)『新装改訂版 中学受験を考えたときに読む本 教育のプロフェッショナルと考える保護者のための「正しい知識とマインドセット」』(二見書房)。

AERA dot.より転載