仮想空間のコミュニティーがリアルな課題を解決するまで
そうした中、16年に新しい動きが出てきます。「NoLo・ソーシャル地区」というコミュニティーによるものです。
フェイスブックには「ソーシャルストリート」という、インターネット上のコミュニティー支援サービスがあります。これは、失われた地域コミュニティーを再活性化し、住民が孤立することなく、社会につながることを目的としたものです。ある調査では、ソーシャルストリートで知り合った50%の人はリアルに会い、25%は実際に何らかの活動に関与するという結果も出ています。
もともとソーシャルストリート上にあった、NoLoの三つのコミュニティーが統合してできたのがNoLo・ソーシャル地区です。この地区に住む人と仕事をする人に限定したコミュニティーで、2023年8月現在の登録者数は1万3000人にも及びます。この存在が、お互いに近くに住んでいるけれどよく知らない人たちが知り合い、リアルに会って地域の価値創造や課題解決につながる動きをつくっていきます。
例えば、公共空間における移動手段を変えるプロジェクトでは、より安全でゆっくりとした速度で移動できるようなシステムが試されています。また、「ラジオNoLo」という地区のラジオ局も設置されました。およそ80人のボランティアによって運営され、地域のニュースや課題などを放送しています。地域の小売店や飲食店などにもつながりが生まれ、商売という枠を超えて、住民の日々の困りごとを互助的に解決するような仕組みもできつつあります。
NoLo・ソーシャル地区のコミュニティは、新型コロナのパンデミックの中でも力を発揮します。クラウドファンディングで資金を集め、生活困窮者に食料品や日用雑貨を提供するといった取り組みが実現しました。
こうした、地域の活動を調査しながらサポートする役割を教育機関が担っています。ミラノ工科大学デザイン学部にあるDESIS(Design for Social Innovation and Sustainability)ラボは、18年からNoLoにある市営の屋内マーケット内に「オフキャンパス」を設けています。そこには常時、学生や研究者がいて、コミュニティーの情報を集約、整理しながら、発信・共有につなげており、オフキャンパスの壁には大きな地図があり、地域内にどのような施設があるか、ひと目で分かるようになっています。