再開発は要らない 地域の魅力を最大化するアプローチとは

 このようにNoLoでは、生活しやすい環境づくりのために、多くのプロジェクトが進行しています。行政を巻き込みながらも、基本的には住民やここで働く人々の発想が起点になっているものが多いです。

 こうした動きは、不動産会社がリードするスクラップ&ビルドの「都市再開発」とは異なり、地域が持つリソースを最適につなぎ直す「都市再編成」というアプローチです。さらに注目すべきは、NoLoとほぼ接しているブエノスアイレス通りという大きなショッピング通りがありながら、そのビジネス圏に加わることで地域を活性化するという、商業的価値を高めるアプローチを取らなかったことです。ビジネスのロジックとは距離を取りながら、あくまで地域の持つリソースを生かすことに注力したのです。

 「危ないから近寄りたくない」と言われた場所が、地域の住民が住みやすいと感じる環境に変わりつつあります。それも、住民自らの意思によってです。異なったアイデンティティーを持った人々が集まると、文化的に豊かなコミュニティーが成立する可能性が高いとされますが、そこに必要なことは、お互いの寛容な態度が社会的なまとまりをつくることです。その高い障壁を乗り越えることは容易ではありません。NoLoでは、さまざまな人々が集まるコミュニティーで地域の価値が共有され、さらにそれを住民が主体的に高めていくというプロセスが生まれたことで変革が進みました。これは地域の意味のイノベーションとして好例でしょう。

 この例にはもう一つ背景があります。実は、この地区はミラノ市内の中でもアソシエーションと称される団体の数がとりわけ多いところです。これは、何か問題が生じた際に組織を立ち上げて問題解決を図るというプロセスではなく、アソシエーションとして何らかの価値をつくり、それを共有して盛り上げようというプロセスを重んじる文化につながっています。

 こうした背景とNoLoの変化を重ねて見ると、意味のイノベーションが促進されやすい土壌とは、問題を眼前にする前に「動く発想」があるということになります。次回は、これを別のアングルから見ていきます。

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