嫌なことが起きると、そのことばかり考えてしまう――。真面目でやさしい現代人は、自分にとって不快なものや、必要のないものに囚われがちだ。89歳でクリニックを開院し、91歳の今も現役心療内科医として多くの患者に接している藤井英子氏は、ネガティブな感情を“ほどよく忘れて生きること”を勧める。人々が抱えている荷物を下ろすコツとは。本稿は、藤井英子『ほどよく忘れて生きていく 91歳の心療内科医の心がラクになる診察室』(サンマーク出版)の一部を抜粋・編集したものです。
現代人に必要なのは
「忘れること」
私は産婦人科医として7年間、そして精神科医として30年以上、患者さんからたくさんのことを教えてもらいましたが、この本を通してお伝えしたいのは、他の誰でもなく、自分から目をそらさないでほしいということ。自分をまっさきに大事にし、自分の声を聞き、自分をいたわり慈しむこと。そのために、「忘れていいこと」と、その反対の「大切に心に留め置きたいこと」を提案してみたいと思います。必要ないものを「忘れる」ことで、自分が本当に大切にすべきものごとが見えてきます。
だからあなたも、誰かのことはいったん忘れて「ご自分を大切になさってくださいね」。
「そうは言っても、いやな気持ちとか、後悔とか、忘れたくても忘れられないものじゃないですか?」
そんな声が聞こえてきそうです。実際に、クリニックでそう言われたこともあります。翌日に持ち越してしまうどころか、ずっと昔のことなのに、魚の小骨のように、胸につかえて今でもとれることがない……と。私自身は、いやな感情や、思いどおりにならなかったできごとへの残念な思いやネガティブな気持ちを、翌日に持ち越すことはほとんどしません。
その秘訣は、実は本当に簡単な方法です。それは、「持ち越さない」と決めること。人は、自分でそう思うから、そうなります。私は、いやなことが起きたり、悲しいことがあったりしたとき、「起きたことは起きたことだ」ととらえるくせをつけています。
起きたできごとをあれこれ考えるより、次にどうするかを決めるほうが大事。「今日の負の感情は今日まで」「起きたことについてグズグズ言わない。どうするかを考える」――最初からそうできていたわけではありませんが、長く生きていると、いつの間にかそんなふうに、気持ちをすっきり立て直すことができるようになりました。これまで、「いやなことを引きずってしまう」という人も、毎日「練習」することで、新しい習慣が自分になじんできます。最初は「10分だけ脇に置く」からはじめてみましょう。
いやなこと、執着、行きすぎたこだわり、誰かへの期待、後悔、過去の栄光は、ほどよく忘れるほうがいい。その一方で、自分自身のことに集中すること、自分の居場所を心地よく保つこと。大事にしたい絆を大切にし続けること。ありがたいと思う心。――それらは忘れずに、日々心に留め置く。いい塩梅を見つけたいと私も日々模索中です。
人はもしかしたら「覚えていすぎ」なのかもしれませんね。「忘れていい」とちょっと気持ちを変えることで、さっぱりとした気持ちのいい心で、毎日を楽しく過ごせる気がします。