優先レーンの導入による
健常者への負担はどれほどか
ところでエレベーターに優先レーンと一般レーンを導入することで、健常者のエレベーター利用にどの程度の影響があるのだろうか。
鉄道利用者に占める優先使用対象者の割合を示す統計や調査は見当たらないが、『令和5年版 障害者白書』によれば全国の身体障害者総数(推計)は436万人で、これは人口の約3.5%にあたる。このうち半数が車椅子利用者とされるが、残念ながら障害者の社会進出が遅れている現状では、鉄道利用者は実際には相当少ないだろう。
一方、国交省の2021年国土交通行政インターネットモニター調査によると、20代以上の男女計976人中、「現在ベビーカーを使用している」と回答したのは約5.8%だった。同項目とのクロス集計は示されていないが「普段外出の際(通勤や買い物など)、電車やバスなどを利用しますか」に「よく利用」と回答したのは約30%だった。
非常に大ざっぱな計算だが、これらの数値から考えると、現時点では車椅子とベビーカーの利用は最大限見積もっても3%が限度ではないだろうか(もちろん障害者施設、保育園の立地など地域的偏りはあるはずだが)。
さしみちゃんに聞くと、地上からコンコース、ホームとエレベーターを乗り継いだとき、どちらもエレベーターを選択する人は1%ぐらいの感覚という。地上からコンコースへのエレベーターは地下に降りる近道だが、改札に入れば階段やエスカレーターの方が利用しづらい。
さて、利用者の3%がエレベーターでしか移動できない優先使用対象者だったとき、その中から無作為に10人(エレベーター1台分)を抽出し、少なくとも1人以上対象者が含まれる確率は計算すると約26%になる(※)。つまり4回中3回は優先レーンに誰も並ばず、健常者だけで利用できる計算となる。
※計算式 1-(97/100)^10
一般的な11人乗りのエレベーターは、車椅子またはベビーカー1台に加えて4~5人が乗り込むことができる。そのため、4回中1回の確率で生じる優先使用対象者の利用時でも、一般レーンで待つ人の半分近くは乗り込めるはずだ。
となると、一般レーンで待つ残る半分の人は、せいぜい1往復待つだけで利用できる。優先使用対象者が待っていてもなかなか乗れない現状と比較して、非合理な負担とは言えないだろう。