明治神宮前駅のEV出口が
歩道に設けられた特殊事情

 続いて検討したいのは、前回記事で例示した明治神宮前駅の構造への指摘だ。副都心線は明治通りに沿って南北に走っており、明治神宮前駅は神宮前交差点の直下にある。図に示した通り、交差点には2つ(4番、5番出入り口)、少し離れて2つの出入り口(6番、7番出入り口)があるが、階段はいずれも原宿方(図下側)にあり、表参道方(上側)にはエレベーター口(以下、EV口)しかない。

図表:『副都心線建設史』から明治神宮前駅平面図『副都心線建設史』から明治神宮前駅平面図に筆者が加筆 拡大画像表示

 4番、5番出入り口は原宿方向から下る構造で表参道方面から遠回りになるため、EV口の一般利用が多いのはやむを得ないという声だ。交差点を渡って階段を使えばいいというのは正論としても、エレベーターが使えるのであれば使いたいのは当然だろう。

 前述の通り、エレベーターは全ての利用者のための設備であり、優先使用ルールが守られている限り、健常者が利用しても問題はない。むしろこのような一般利用が多いエレベーターでも優先使用が守られる対策であれば、実効性があると評価してよいだろう。

 背景には副都心線明治神宮前駅が非常に特殊な駅という事情がある。というのも副都心線開業時に新設された雑司が谷~渋谷間の各駅で、歩道上に設置されている出入り口は明治神宮前駅のEV口だけだからだ(新宿三丁目駅のE8出入り口、EV口は高島屋の敷地内)。

 地下鉄の出入り口といえば歩道上にある印象が強い。だが、1980年代以降に建設された駅については、歩道上に設置できるのは「道路の敷地以外に適当な場所がない場合に限る」とされており、副都心線の各駅は隣接するビルなどと合築する形で出入り口を設置している。

 ところが明治神宮前駅では、『副都心線建設史』に「土地取引価額の高騰が著しく公示地価の数倍での取引となっていたことから、用地買収交渉が特に難航した」と記されているように、用地取得が困難だった。

 原宿方の歩道上にある4番、5番出入り口は千代田線開業時に設置されたものであり、唯一新設された7番出入り口は鉄道運行に必要な換気塔に併設されたものだ(なお5番出入り口はエスカレーター設置などの改造を受けている)。

 おそらく表参道方にビル合築の出入り口設置を模索したのだろうが、ビルの建て替えに賛同が得られず、またビルの買収には多額の資金が必要だった。そこでバリアフリールート確保に必須となるEV口を、やむを得ず歩道に設置したと考えられる(階段も設置できればよかったのだが、スペース的に難しいだろう)。

 エスカレーター併設の出入り口を新設して一般利用者を分散させるためにビル所有者に粘り強く働きかけるというハード思考も重要であり、今後も可能性を模索してほしいが、いずれにせよ早期の実現は困難だ。その間は既存の設備を最大限、有効に活用する道を探るしかない。何度も繰り返すが、優先使用というルールは既に存在しているのである。