相続手続きのDXで
空き家問題に取り組む

◆CASE3 空き家×相続◆ AGE technologies

 空き家問題と切っても切り離せない関係にあるのが相続の問題だ。国土交通省の「令和元年空き家所有者実態調査」によると、空き家所有者の約55%が相続によって空き家を取得している。 

「空き家問題」にDXで挑むベンチャーたち、畳む・生かす・引き継ぐ需要に見出した商機塩原優太(しおはら・ゆうた)
AGE technologies代表取締役CEO。新卒でIT広告代理店に入社、Web広告の運用実務を経験。その後アプリ開発を行うスタートアップを経て、中小企業の相続・事業承継に特化したコンサルティング企業へ入社。拡大する超高齢社会に起こる課題の大きさを感じ、2018年、当社を創業。Photo by Jun Murakami

 AGE technologies代表の塩原優太氏は、この相続のタイミングで正しく手続きが行われず、適切に不動産が管理されてこなかったことが、空き家問題を生む原因の一つと見ている。

 では、なぜ相続がスムーズに行われないのか。理由は主に2つある。

 一つは家族の問題で、例えば父母の一方が先に亡くなり、その後残されたもう一方の親も亡くなったとき、二次相続をする子どもはすでに親元を離れて疎遠になっていることが多く、実家に住むこともなく、資産価値もさほど高くないという場合である。

 もう一つは相続の手続きの煩雑さだ。自分にさほどメリットがないうえに管理に時間を取られ、さらに面倒なやり取りが必要になることで、放置につながっていると考えられる。

 しかし2024年4月からは、相続発生後、3年以内に不動産の登記と名義変更が義務付けられ、違反者は過料が科される。またその対象は、法改正以前に所有して登記が済んでいない不動産も対象になるため、該当者は早めの対処が必要になる。

 手間も費用もかかる相続の手続き。同社は、不動産の名義変更手続きに必要な戸籍の取得、申請書の作成などの作業をワンストップで完結するウェブサービス「そうぞくドットコム不動産」を運営。20年のサービス開始以来、累計2万6000件以上の不動産登記を支援してきた(23年8月時点)。

「私たちは高齢者や高齢社会の課題をテクノロジーで解決する『エイジテック』に取り組んでいますが、相続にまつわる課題を考えると、どうしても空き家問題は避けては通れません。

 空き家を活用しようとするときに、その前段階の相続手続きが適切に行われていないという現実があり、国が法律を変えてまで相続登記を義務化しなければならないほど、その問題が深刻になっている今、自分たちが取り組むべき課題だと考え、ソリューションを提供しています。

 また多くの自治体が空き家問題に取り組んでおり、そこと連携することで『そうぞくドットコム』の普及にもつながるという狙いもあります」

 現在同社が行う「空き家の発生抑制を目指す自治体支援事業」は、全国15の自治体と連携(23年8月時点)。地域住民向けの相続手続き対策サイトの運営やオンラインセミナーの実施など、相続の視点から空き家問題解消に向けアプローチをしている。この取り組みは、令和4年度、国土交通省「住宅市場を活用した空き家対策モデル事業」に採択されている。