大手事務所の影響力が強大化した背景
1953年「5社協定」の存在
有力な芸能事務所の影響力が強大化した背景として、さかのぼると1953年に大手映画会社5社が結んだ「5社協定」の存在がある。協定の趣旨は、人材の引き抜きを禁じるもの。これにより映画の監督や俳優が、自由な活躍の場、より多くの選択肢を手に入れることが難しくなった。その後、公正取引委員会が問題視し、協定の一部の条項を削除した。また、この協定が作品の質の低下を招き、映画界の凋落を早めたとの指摘もある。
ただ、テレビ時代になっても、芸能界で人材を囲い込んだ組織に決定権が集中する構造は大きく変わらなかった。ジャニーズ事務所はその環境を巧みに利用した。一例として、音楽のストリーミングが普及する以前、ジャニーズ事務所はSMAPの新作CDはビクター、TOKIOはソニーミュージックという具合に、多くの音楽系事業会社を活用した。
狙いは、各社に販売を競わせ、アイドルグループの収益を増やすことだった。CDの販売が増えれば、音楽番組への出演も増え、ファンクラブの会員は増加する。会員が増加すれば、コンサートチケットやグッズの売れ行きだけでなく、タレントは広告塔としての価値も高まり、コマーシャルなど活躍の場が広がり、事務所の収益、影響力も増大する。
こうしてジャニーズ事務所はテレビ局、音楽会社、広告代理店などに対して影響力を強めた。テレビ局などタレントの需要者も、視聴率を高めるため、ジャニーズ事務所に対して忖度するようになった。
一方、米欧のエンターテインメント業界は、わが国と異なる。タレントは、自らマネジャー(予定管理やキャリア形成のサポートなどを行うプロ)、エージェント(映画出演などの契約を獲得するプロ)を別々に雇う。ハラスメントや契約の問題に対応するために、エンターテインメント業界を専門とする弁護士を雇う俳優も多い。
米欧でも一部のエージェントとテレビ局の癒着などはあるようだが、基本的な構造がわが国と異なる。俳優や歌手など才能のある人に決定権があるといえる。それを支える要素として、米カリフォルニア州は「タレント・エージェンシー法」を制定している。道義的に問題のある人物がエージェントになるのを防ぐため、ライセンス制度が運用されている。