為替リスクは
「ゼロサム・ゲーム」のリスク

 ずいぶん前のことになるが、公的年金の運用計画における外国債券の期待リターンについて、ある大学の教授と議論をしたことがある。

山崎「外国債券の期待リターンは、どうして国内債券よりも高いのですか?」

教授「それは、為替のリスクがあるじゃないですか。ハイリスクなものは期待リターンが高いというのは、ハイリスク・ハイリターンの原則から言って当然じゃないですか」

山崎「同じ期間に、外国から日本の債券に投資している投資家の期待リターンはどうなりますか。同じ大きさのリスクを負担しているはずなのに、あちらのリターンも高いということはあり得ませんよね。考え直した方がよくありませんか」

 教授殿は、言い返せなくなって、怒って話題を変えた。

 外国為替のリスク自体は「ゼロサムゲーム」のリスクだ。一方の通貨がもうかるときには他方の通貨が損をして、少なくとも実質価値に関しては両方の損益の合計はゼロだ。

 外国為替市場全体では、お互いの見通しの違いに対して賭けが行われるが、その賭けの損益合計は取引コストを除くとゼロだ。株式投資のように、資本を提供する際にリスクプレミアムが価格に含まれて「ハイリスク・ハイリターンの原則」が成立する種類のリスクを取るのではない。