李克強が総理を務めた10年間
IT業界や予備校業界への締め付け、不動産業界の不調……

 まず、「国進民退」が誰の目にも明らかとなった。これは「国有経済が成長し、民営経済がやせ細る」という意味だ。WTO加盟を受けて大きく民営企業が成長した2000年代に比べ、2010年代はそうやって成長した新たな経済が「国のシステム」に取り込まれる時代となり、「新たな制度作り」が急速に進んだ。

 記憶に新しいところでは、IT業界の巨人「阿里巴巴 Alibaba」(以下、アリババ)の馬雲(ジャック・マー)会長(当時)による経済政策批判をきっかけに、大掛かりなIT業界の締め付けが始まり、さらに「子供と家族の負担を減らす」という理由で当時成長産業だった校外教育産業が潰された。これにより、高学歴の失業者が大量に出現。さらに新型コロナウイルスによる肺炎の大流行と行き過ぎた感染防止政策によって民間経済は停滞を余儀なくされ、10年どころか過去20年間に培われた新たな民間経済パワーは大きく挫折した。

 コロナ対策解消後の今になって、中国政府はあわてて民営経済の育成や支援を口にするようになったが、当時見捨てられ、切り捨てられて痛い目に遭った民間の士気はまだまだ低い。特に、高学歴者や若い世代には面従腹背がまん延し、政府が求めるような「一致団結」には至らないままだ。

 もちろん、そうした政策に李克強がどれほど主体的な役割を演じたかは分からない。習近平の一存によるものなのかもしれない。それでも李は間違いなくこの3月まで政府のトップ指導者の一人だったのである。特に、今やデフォルト騒ぎが続いている不動産業界が野放しだったこと、そして新たな時代の成長の柱だったIT産業や民間経済に対するあまりにも厳しい措置の数々において、李にその責任はないとは言い切れないはずだ。