チャイナリスクの多様化に
企業はどう対応すべきか

 以上のように多様なリスクが存在する中で、残念ながら、チャイナリスクにおける重要リスクをリスクテーマとして真剣に分析・評価している企業は多くない。そういった企業に対応策を聞いてみると、“リスクとして認識していない/そもそも発生しないだろう”という前提で質素な答えが返ってくる。いざ各リスクシナリオを丁寧に説明すると「対応すべきことは何ですか」と慌てて聞いてくるといった形で、リスクの検討さえされていないという実態が見えてくる。

 そこで、企業としてはチャイナリスクについてトレンドに則ってリスクを把握し、当該リスクのシナリオを描くことで、自社の対応状況を把握・評価しなければならない。

 例えば、企業においてチャイナリスク評価は有効だ。以下のようにX軸とY軸をおいて評価シートを作成することで、簡易的ではあるが自社の対応状況や穴が可視化される。

【チャイナリスク評価の例】
<X軸>「リスクテーマとリスクシナリオ」
・米中関係(法規制強化/応酬)
・人権問題(ウイグル関連)
・台湾有事
・中国データ関連法規制 など

<Y軸>「対応状況や影響度」
・蓋然性
・自社の対応現況
・想定影響
・(影響の)コントロールの可否 など

 特に、X軸においては、前述の反スパイ法、国家安全法、国防動員法などの恣意的運用の可能性や不透明な法規制をリスクテーマないしはリスクシナリオに追加し、分析されるべきである。

 もし、「反スパイ法や国家安全法などは極めてまれなケースである」として、当該リスクさえ検討しないようであれば、社員を守る企業の責務を果たしているとはいえないだろう。注意しなければならないのは、守るべきは自社の日本人社員だけではない。自社に貢献してくれている現地採用の社員も守るべきである。

 これは、台湾有事への対応も同様であり、日本人社員だけではなく、現地採用社員やその家族の身の安全の確保や食料などの備蓄も検討されなければならない。

 そこには、自社の社員が中国側に動員されうるといった国防動員法とのジレンマもあるだろうが、それを踏まえて、自社で採用・管理する人員について、企業は全て責任を持って守らなければならない。

 企業は、自社の社員を守るために、今一度“チャイナリスク”を見直す必要がある。

(日本カウンターインテリジェンス協会代表理事 稲村 悠)