子育て事情に詳しいジャーナリストの小林美希さんはこう指摘する。

「国の目玉の政策として、待機児童の減少を掲げて20年以上が経過しました。元々の待機児童数が多く、それに急ピッチで応じなければいけない。待機児童の定義に“特定の保育園を希望している”を外したほうが待機児童数は少なく見えるため、行政にとって都合がいいのです」

 小林さんによれば、特に国が待機児童問題に注力したのは、第二次安倍政権時代だという。政権発足後、成長戦略の柱として「待機児童ゼロ」を掲げた。13年に「待機児童問題を17年度末までに解消する」と宣言。15年に打ち出した「新3本の矢」では「希望出生率1.8」の実現のため、施設整備を進めた。

 その後、16年には匿名ブログで投稿された「#保育園落ちた」が話題となり、SNSで大きく拡散された。政府は保育士配置基準の緩和を進め、受け入れる子どもの数を一人でも多く増やすことを狙った。また、切り札として「企業主導型保育」を新設した。これにより、約8万6000人分の「受け皿」が用意されたという。

 ところが……。小林さんはこれらの政策の危険性についてこう説明する。

「規制緩和により、保育の質が問題視されるようになりました。保育士による園児への虐待が報道されて社会の注目を集め、保育士が逮捕されるケースも出てきました。こうしたことから、評判の良い特定の園を希望する人は少なくはありません。なのに、待機児童にカウントされないのはおかしい」

 園児への暴行や虐待などが全国の保育園で相次いでいることから、こども家庭庁は22年に初めて、全国調査に乗り出した。同庁はその調査結果を23年5月に公開。22年4月から12月の間に、子どもの人格を尊重しない不適切な保育は全体で1316件に上り、このうち虐待は122件となった。

 小林さんはこう言う。

「そもそも余裕のある人員の配置が必要です。そのためには配置基準の引き上げと保育士の待遇改善をセットで行わなければなりません。とはいえ、保育の現状を知るための要素として、待機児童数が適切にカウントされていなければ、実態の改善は遠い」

(AERAdot.編集部・板垣聰旨)

AERA dot.より転載