そのような状況になったときに、今のままでは大都市と地方の格差は広がり続け、地方は置き去りにされてしまいます。

中小の業者による高齢者住宅は
利益を取りにくい事業構造

 地方の高齢者住宅事業は大都市とは異なり、新たな建設が少なく停滞しています。この理由は、「利益が出ず、経営していけない」というレッテルが貼られたためだと考えています。

 まず、いわゆる富裕層は数の面で大都市圏に偏っているため、地方では一時金や家賃を高く設定すると、入居する人がいなくなってしまいます。このため低価格帯に集中するのですが、家賃収入だけでは収支がプラスマイナスゼロ、あるいは赤字になってしまうため、介護事業で補う必要が生じます。その結果、地方の高齢者住宅の多くは元気な人が入居できないようになってしまいました。

 また、経営環境も悪化しています。これには看護・介護人材不足、人件費の高騰、建築費の高騰、制度上の運営の難しさ、同一建物集中減算などを含めた実質的な介護報酬のマイナス改定などの要因が多数挙げられます。高齢者住宅を建てるために莫大な初期投資が必要となり、無事に建てられたとしても介護職員や看護師を確保できなければ事業をスタートできません。

 日本には2023年1月末現在、サービス付き高齢者向け住宅は約8000棟、約28万室あり、1棟あたり平均35室です。以前は平均30室程度でしたから増加の傾向にあるとはいえ、平均35室では事業規模が小さくて経営が成り立ちにくくなっています。このため私たちは1棟50室以上を基準にしています。1棟30室の高齢者住宅を運営する業者は、資金が足りないからそうせざるを得ないのです。

高齢者住宅が介護施設の代替となり
「豊かな暮らし」がないがしろに……

 私が現在の高齢者住宅で問題だと思うことの一つに、介護施設の代替のようになっている状況があります。介護保険施設である特別養護老人ホームは社会福祉法人や地方自治体が運営する公的施設で、要介護度3以上の高齢者が入ります。このため費用は低く抑えられ、サービスは介護が中心です。多数の高齢者住宅を展開している私には、お年寄りの豊かな暮らしを目指しているようには見えません。そして、多くの高齢者住宅が特別養護老人ホームの代替施設となり、入居者の介護にばかり目が行って「人生100年時代の豊かな暮らし」がないがしろにされているように思うのです。