特別養護老人ホームの空きが少なく、入居を待つ「待機高齢者」が非常に多いということも問題になっています。2015年10月に発足した第3次安倍晋三改造内閣は「一億総活躍社会」を目指すと宣言し、実現するための三本の矢の一つに「介護離職ゼロ」を掲げました。そして、「2020年初頭までに介護の受け皿を50万人分以上へ拡大するため、介護施設等の整備を継続実施する」としました。この時点で、特別養護老人ホームに入所できない待機高齢者は約52万人とされていました。

 この結果、特別養護老人ホームの拡充にばかり目が向いてしまいました。たくさんの待機高齢者をターゲットに高齢者住宅事業に参入した事業者は、どうしても低価格帯に設定して介護で利益を得ようとします。高齢者の住まいは多様であるべきなのに、日本の高齢者住宅は「介護施設」になってしまっています。

 私は今、自分の目指す事業の形を「新・高齢者住宅」と名付けて構想を進めています。2003年に創業してから現在まで、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を計36棟建設するなかで築き上げた考え方です。

 現在の日本では、自分の老親が高齢者施設や高齢者住宅で暮らすことになった場合、ほとんどの人が「申し訳ないことをした」と思ってしまいます。親族など周囲の人から「施設に入れるなんて」ととがめられることもあります。老親自身も「入るしかないのか」と消極的に受け入れ、生活の質が下がるのは仕方がないことだと諦めてしまいます。

 残念ながら、「施設は喜んで行くところではない」というのが今の世間一般のイメージです。

 しかし、私は、高齢者住宅を変革し、世間のイメージも変えて、入居させることは子どもにとって「親孝行」であるという常識を定着させたいのです。

 特に地方は高齢者が住みにくい街になっています。車がないと満足に買い物はできないし、住居の中も決して「安全」とはいえません。社会情勢からしても、高齢者が若いときのまま同じところに住み続けるのは無理があります。

 それならば、高齢者にとって生活しやすい地域にあり、スタッフの目が行き届いた「新・高齢者住宅」に住んでもらうほうがずっといいはずです。実際に、この構想のもとで展開している高齢者住宅を見学した人たちからは、従来のイメージと違うものだと好評を得ることができており、手ごたえを感じています。