「ヒット作を生み出したい」とは、ビジネスパーソンなら誰もが夢見ることだ。日本中の人がその商品の名前を知っている「メガヒット」ならなおさらよい。「綾鷹」「檸檬堂」「からだすこやか茶W」「SK-Ⅱ」「ファブリーズ」「ジョイ」…これらの商品は、ほとんどの日本人が知っているメガヒット商品だ。これらの商品を大ヒットに導いたのは、P&Gジャパン、日本コカ・コーラを渡り歩いた伝説のマーケター・和佐高志氏である。彼の初の著書『メガヒットが連発する 殻を破る思考法』(ダイヤモンド社)から一部を抜粋・編集して、ヒット作を生み出すコツを学ぶ。

なぜ洗剤のCMに出演する男性タレントが増えたのか?Photo: Adobe Stock

世間のお母さん方は、毎日ものすごく頑張っている。でも、誰もほめてくれない

「アリエール」では、当時SMAPの草彅剛さんをCMに起用し、大きな支持を得ました。今、洗剤の広告には男性がたくさん出ていますが、その走りはこの広告だったと思っています。

 かつて洗剤の広告は、「ユーザーは女性」という固定観念が強く、同年代の女性が家事を頑張っているシーン、というものがほとんどでした。しかし、消費者インサイトは本当にそうなのか、と私は思ったのでした。

 ユーザーが求めていたのは、何だったか。誰の顔を見て、その話を聞きたいか。それを考えたとき、「女性が登場する」以外の選択肢が間違いなくある、と思ったのです。

 実は草彅さんへの依頼は、当初事務所からノーの答えが返ってきました。しかし、私の部下のブランドマネジャーからなぜ草彅さんに出演してもらいたいかを手書きで書いた手紙を出してもらい、最終的にOKをもらうことができました。

 世間のお母さん方は、毎日ものすごく、頑張っている。でも、誰もほめてくれない。だから、彼女たちの頑張りに対して、本当は夫であるお父さんが思っている「口に出しては言えない感謝の気持ち」を代弁してもらえないだろうか、とメッセージしたのです。

 ちょっと照れくさくて表では言えないけど、頑張っていることはちゃんとわかっているよ、というお父さんのインナーボイスをお母さん方に伝えてもらう。ちょうど草彅さんがお父さん役でドラマをやっていたこともあり、彼が適役だと思ったのです。

 このCMは、日本にいるたくさんのお母さん方の応援歌になる。だから、ぜひお願いしたい、と。こうして、快く引き受けてもらえたのでした。

 ただし直接ほめられたりするのは、ちょっと違うのです。だから直接のメッセージにはしない。でも、ちょっと気にしてくれている。ここがまた、インサイトでした。

 たとえば、草彅さんがホテルに泊まると、ホテルのタオルの臭いがちょっと気になった。家では臭いなんてしたことがない。ああ、家では頑張ってくれているんだな、とあらためて思う。あらためて、感謝する。

 かつてなかった、男性が洗剤の広告に出るという草彅さんのCMは、大きな反響を得ました。そして「アリエール」も大きく売り上げを伸ばしていきました。

なぜ洗剤のCMに出演する男性タレントが増えたのか?

和佐高志(わさたかし)1990年、同志社大学文学部新聞学科卒業後、P&Gジャパン・マーケティング本部入社。医薬品、紙製品のマーケティングに始まり、化粧品&スキンケア、洗濯関連カテゴリー等を担当。ブランドと人材育成の実績を重ね、ブランドマネジャーからマーケティングディレクターへ。2006年、紙製品、化粧品&スキンケア事業部担当のジェネラルマネジャーとして、P&Lの責任を持つ。2009年より、日本コカ・コーラのお茶カテゴリーマーケティング責任者。「太陽のマテ茶」や「からだすこやか茶W」などの新製品発売および「綾鷹」ブランドの立て直しなどによるお茶カテゴリーV字回復を実現。2013年、同社副社長に就任し、「ジョージア ヨーロピアン」「世界は誰かの仕事でできている。」キャンペーンなど複数の大型ブランドのビジネス拡大推進をリード。2019年にコカ・コーラ社世界初となるアルコールブランド「檸檬堂」の開発責任者として成功を収め、最高マーケティング責任者に就任。2020年、日経クロストレンドが選出する、マーケター・オブ・ザ・イヤー大賞受賞。2023年、同社を退社。株式会社Jukebox Dreams(ジュークボックスドリームズ)を設立、同社代表取締役CEO就任。