全国に続々と
マイクロブルワリーが登場

 ビールは地域の農産物を副原料として使いやすいため、クラフトビール解禁後には「おらが町に新たな名物を」と、新たなビールメーカーが全国に続々と誕生した。これが90年代に起こった地ビールブームだ。

 しかし、門外漢がいきなりおいしいビールをつくれるほど甘い世界ではない。一部に品質イマイチなビールが散見され、また、ビール産業をビジネスとして成立させるノウハウを持たない事業者も多かったことから、ほどなく大量淘汰の時代が到来する。鳴り物入りで参入した新興メーカーの倒産が相次ぎ、地ビールブームはものの10年足らずで収束してしまうのだった。

 そうした浮き沈みを経て、なぜいま再びクラフトビールが盛り上がっているのかといえば、それは “淘汰の10年”を乗り越えた腕の確かなブルワー(醸造家)たちが、静かに市場を守り続け、さらなる研鑽に努めたからに他ならないだろう。

 実際、国産クラフトビールのレベルは確実に向上しており、現在のトップシーンで活躍する日本人ブルワーの腕前は、海外ブルワリーと比較しても何ら遜色がないと筆者は確信している。

「クラフトビール」をサラッと注文できる基礎講座、いつものビールと何が違う?醸造風景。ビールは麦芽と酵母とホップを主原料とする  photo by Satoshi Tomokiyo


 また、ビールは基本的に熟成期間が不要であることから、日本酒やワインよりも生産から販売までのタームが短く、手早くキャッシュを得やすい側面を持っている。脱サラ、起業の手段として魅力的で、これも新規参入を後押ししていると考えられる。

 さらに2010年代半ば頃からは、地方創生が強く叫ばれるようになり、これもクラフトビールにとって追い風だった。過疎化の進む地域に若い世代が移住し、ビールづくりに励む事例は枚挙にいとまがない。

 現在、およそ740社のブルワリーがほどよく日本列島、津々浦々に散っていることからもそれは明らかだ。地ビールブームの頃と比べて、ネット通販が浸透し、販路が確保できるようになったことも大きいに違いない。時を経て、ビールは小規模に、そして地方でも勝負できる商材になったのである。

「クラフトビール」をサラッと注文できる基礎講座、いつものビールと何が違う?全国に急増中のマイクロブルワリー。脱サラしてこの道に進んだつくり手が東京で営む「ミヤタビール」の醸造所 photo by S.T.