2023年のスタートアップシーンや投資環境はどのように変化すると予想しますか。
シードステージで言えば、そこまで調達金額や時価総額が過度に下がることはないと思っています。ただし、引き続きシード以降のラウンドが厳しい市況であることに変わりないので、その中でもしっかり大きくイグジットができる可能性があるかどうか、しっかり戦えるランウェイが確保できているか。そして何よりも優秀な起業家であるかどうかという点は今まで以上に重視されるポイントなのかなと思っています。
またプロダクトの観点から見ると、PMFの長期化も起こりそうだと思っています。スマホ保有率の増加、DX化の流れ、またスタートアップの盛り上がりなど、さまざまなハイクオリティのプロダクトが生まれた結果、ユーザー側もプロダクトに求める水準がかなり高まっている感覚があります。PSF(プロブレム・ソリューション・フィット)が完了しても、ユーザーが求める機能・水準に至るまでのPMFまでの道のりはより長期化し、深く長く潜る企業も多くなると思っています。
またVCでいうと、2022年はさまざまな変数が発生し、大きく複雑な意思決定をせざるを得なかったと思っています。市況の悪化やそれに伴う想定リターンとの乖離(かいり)、新規のファンドレイズタイミングとそれに伴う新規投資のペースの鈍化、調達が難航したときの追加出資の金額検討など、今までよりも難易度が上がっているフェーズであるのは間違いないです。2022年で変わったものに、改めて向き合わざるを得ない年なのかなと思っています。
2023年に注目する・盛り上がると考える領域、テーマ、テクノロジー、プロダクトなどを教えてください。
他の人とかぶらないように考えてみました。
・趣味の細分化→課金の集中
最近、社会が分断している、もしくは画一的な幸せを求めづらくなったことから、よりお金の使い道が細分化されていると感じています。また、SNSなどで承認欲求を求めるが故に、他者のお金の使い方、ひいては生き方そのものが可視化されていることから、より自分が幸せを感じるところに、より集中してお金を投下する人が増えていくと思っています。
これは過去にもあった現象ですが、今後はより(他者から見たら)なぜ課金をしているかわからないものがどんどん増えていく気がしています。toC領域に投資するVC目線でいうと自分がユーザーにはなりえないものが増えてきており、投資テーマの難易度が上がっているとも言えます。
・コンパウンド企業(創業初期からマルチプロダクトを作る会社)
条件はかなり厳しいですが、シリアルアントレプレナーのような、与信を含めて最初のラウンドからファイナンスをしっかり成功させることができ、さらにマネジメントに対しても利がある起業家にとって、創業期から複数プロダクトを同時に生み出すことが増えてくる可能性があると思っています。PMF後はもちろんですし、PMF前から複数プロダクトを試すことで、シングルプロダクトよりもPMFに到達しうる試行回数を多くできるメリットもあります。非常に難しいですし、それ故に数が多くないとは思いますが、今の起業のカウンターポジションとして生まれるかもしれないなと考えています。