「どうせだったら、乾いたあとにアイロンもかかればいいのにな」

頭のなかでは、服がエアバッグでパンパンに膨らんでいる映像が浮かんでいた。「これはうまくいきそうだ」と直感した山光は、取引先の中国の工場に連絡。試作品を作ってもらって日本でテストしたところ、期待通りの結果が出た。

 

そうして2017年6月に発売されたのが、『シワを伸ばす乾燥機「アイロンいら~ず」』。乾燥機にヒト型の袋をかぶせて空気を送り込む。パンパンに膨らんだ袋に洗濯したばかりの服を着せると、しわが伸びた状態で乾く。わかりやすいネーミングと機能性、そしてなによりユニークな存在感で話題になり、サンコーが初めて開発した家電は思いのほか売れた。この時、山光は腹をくくった。

「実は、社内では数年前から家電をやりましょうという意見が出ていたんです。でも、日本って本当に家電メーカーがすごく多いし、そこに対抗するのは難しいんじゃないかなって僕がブレーキを踏んでいました。アイロンいら~ずもニッチ過ぎてダメかと思ったんですけど、マーケットが大きい分、予想以上に売れた。それなら、もっとラインナップを増やしていけば、それが大きな柱になるという手応えを得たんです」

アイデアをすぐ形にするために

家電の市場規模は、7兆円(2022年)。スマホとパソコンの周辺機器とは桁が違う。サンコーは、大手メーカーとはまったく異なる発想で家電業界に参入した。目指したのは、「困りごとの解決」。例えば、「乾燥機を使えば早く乾くが服にシワが残る」という課題を解決したのが前述の「アイロンいら~ず」で、現在第3世代まで発売されている。

すでに10年以上続いていた全社員による「アイデア出し」は、社員が日常の中で感じた不便さや不快さを解決する「あったらいいな」を提案するものが多かったから、家電開発の強力な源泉となった。社員が30人いれば、1週間で最低30個、1カ月で120個のアイデアが集まる。45人いる現在は1カ月で180個、1年で2160個だ。

これだけの数のアイデアが身近にあるのに、毎回中国に試作を依頼していたら、商品開発のサイクルが遅くなる。「アイロンいら~ず」をリリースした2017年、山光はDMMが秋葉原で運営していたモノづくりのためのコワーキングスペース「DMM.make AKIBA」のスペースを借り、3人のスタッフを常駐させてプロトタイプを作ることにした。

「その頃、僕が社員投稿用の掲示板をチェックしていたので、いいと思ったアイデアを少し煮詰めた後、ちょっと作ってみてと投げて、すぐに3人に取り掛かってもらいました。それができると、僕らがチェックするという流れです。専任の試作スタッフを置いたことで、商品開発の効率がすごく上がったと思います」