家電に進出したサンコーは、月に2アイテムのペースで商品をリリースした。それを可能にしたのが、このプロトタイプ製作チームだ。

すぐにプロトタイプを作れるようになったことは、営業でも有利に働いた。完成品ができる前にバイヤーと話をする時、それまでは書類を持参してコンセプトを口頭で説明するしかなかったが、プロトタイプを見せるとイメージがしやすくなり、明らかに受注数が変わったという。

現在は社内にプロトタイプ製作室を置いていて、2名の専従スタッフが働いている。アップルも社内に工作室があり、すぐにプロトタイプを作れることで有名だ。規模の違いはあれど、元アップルオタクの山光も同様の体制を築き上げた。

モデルチェンジを繰り返した「ネッククーラー」

2017年に家電に進出して以降、サンコーは「ユニーク家電」「オモシロ家電」「アイデア家電」のメーカーとして知名度を上げていった。サンコー流モノづくりを象徴するのは、シリーズ累計販売台数が100万個を超えた大ヒット商品、首にかけるクーラー「ネッククーラー」。実はこの商品、最初から売れたわけではない。

現状モデルの先駆けは、2015年にパソコン周辺機器として発売したUSBひんやりネッククーラー「こりゃひえ~る」。最初に2000個作ってしばらく後に完売したが、驚くような売れ行きではなかった。ただ、「ニーズがあるのは間違いない」と判断し、デザインや機能性をリニューアルして販売したところ、「まあまあ売れた」。

2019年、さらにコンパクトにしたり、厚みを薄くするなどして改良した「ネッククーラーmini」は1万6000個ほど売れた。「じゃあ次はもっと売れるはずだ」と翌年、静音性を高めた「ネッククーラーNeo」のプロトタイプを持って営業をかけたところバイヤーからの注文が殺到し、23万個売れた。そして2021年に発売したコードレスで使える「ネッククーラーEvo」は60万台超が売れるヒットを記録。

そう、「ネッククーラー」は「売れるはず」という見立てのもとにモデルチェンジを繰り返した結果、大ヒットした。サンコーでは、そういう商品が少なくない。その見立てのカギを握るのが、山光が言う「ニーズの広さと深さ」だ。

「すごくニッチだとしても、この商品があったらものすごく便利だっていうものは売れます。ニーズが狭くても、深く刺さればいいということです。逆に、ニーズが広ければ深みがなくても売れます。深いのか、浅いのかを常に見るようにすると、外れが少ないんじゃないかな。最初にあまり売れなくても、ニーズの手応えを感じていたら、改善して売り続けるのも重要です」