「ニーズの広さと深さ」とは?
例えばサンコーの商品で、「狭くて深い」ニーズを捉えたのが「エレクトリックナイフ」。これはケーキやパン、ローストビーフなどの断面が美しく切れる電動包丁で、山光は最初、商品化する必要性を理解できなかった。しかし社員から「普通の包丁だと潰れてしまう。断面が汚くなって写真映えせず、せっかく作ったものが台無しになる」という意見を聞いて商品化したところ、「まあまあ売れた」。
ニーズが「広くて浅い」のは、「おひとりさま用超高速弁当箱炊飯器」。これは1合のお米が14分で炊けて、しかもそのまま食べられる弁当箱型の炊飯器で、20万個弱売れている。日本人の家庭なら炊飯器は一家に一台はあると考えるとニーズは「浅い」が、ひとり暮らしで温かいご飯をパッと食べられて、片付けも簡単というニーズは「広い」というわけだ。
そして、ニーズが「広くて深い」のがネッククーラー。夏は暑いから「広い」。そして特に夏、外で仕事をする人にとっては手放せないから「深い」。どちらも兼ね備えると、ヒットの可能性は高まる。
もちろん、常に予想が当たるわけではない。しかし、「当てが外れてまったく売れなかった商品はありますか?」という問いに山光が挙げた「超音波クリーナー」ですら、「ほとんど売れて、ちゃんと採算は取れています」と言っていたから、赤字になった商品はゼロということだろう。
冒頭に記したように、社員45名にして年商約44億円は、上場企業の上位10%に迫る収益力。イケショップから鍛えたマーケティング感覚と目利き力は、今もサンコーを支えているのだ。
2022年11月、サンコーは毛織物製造大手、日本毛織(ニッケ)の傘下に入った。この話が来る前にIPOの準備を進めていたそうで、「ものすごく葛藤した」そうだが、今後、資金力や人員を強化して、さらに進化するために決断した。
ニッケは子会社を通じてECに注力しており、山光はそのノウハウを活用しての海外展開を視野に捉える。海外ではすぐに類似品が出回るため、いかに権利を守りながら攻め込むかが問われる。その際にニッケの知見も支えになるはずだ。
スティーブ・ジョブズはかつてこう言った。
「人はたいてい、自分が何を望んでいるのか、目の前に差し出されるまでわからない」
日本人の埋もれたニーズを次々と掘り起こしてきた山光が、世界で勝負を仕掛ける。